イラスト入り
作家買い。
2000年に刊行された同名小説の新装版。旧版は未読なのでそちらとの比較はできません。
2000年、ということは21年前に刊行された作品ですが、今、木原さんが書かれたと言われても違和感のない作品でした。木原作品の根っこは変わってないんだなあとしみじみ思いました。
新装版の挿絵を鳩屋さんが描いてくださっていて、だからでしょうかね、すごくほのぼのな空気感漂う表紙になっていますが、作品の内容としてはほのぼの系ではありません。「木原作品にしては」痛さはマイルドな作品と言えますが、痛い展開が苦手な方は注意された方が良いかもです。
旧版の方のレビューでも内容に触れてくださっていますが、ここでもネタバレ含んだレビューを書こうと思います。ネタバレ厳禁な方はご注意ください。
邦彦と勇は幼馴染。
足が速くって泳ぐのが上手な勇は、邦彦にとってヒーローだった。
が、勇は親からネグレクトされており、成長するに従い勇の異質さに周囲が気づくようになっていく。徐々に道を踏み外す行動を取る様になっていく勇に声をかけ続けたのもまた、邦彦だけだった。
が、19歳になった時に勇から言われたのは「子どもができたから結婚する」というセリフ。そこで邦彦は、自分が勇に恋をしていたのだと気づくが―。
というお話。
木原作品には定番と言って良いでしょう、機能していない保護者を持つ子(=勇)、が登場しています。中卒で学もなく、だらしなくって、けれどそんな勇を放っておけない邦彦。そしてそこに勇の子の俊一が加わる。妻亡きあと、息子の俊一を男手一つで育てている勇だが、仕事をして、家事をして、子育てをする、それをこなすだけの力が、勇にはない。
BL作品において生活能力のない受けって珍しくはありませんが、木原作品なのでその枠に収まりません。不憫な男性ではありますが、彼自身結構なダメ男なんですね。だから勇という男のどこに邦彦が惹かれたのか、さっぱりわからない。
まさに恋は堕ちるもの。自分ではどうしようもない感情に振り回される。恋とか愛とか、そういう思いを自覚する前から、あるいは気づいた後も。
今作品は、邦彦×勇の話である表題作「黄色いダイアモンド」に、勇の息子の俊一視点で描かれた「歯が痛い」、そして俊一のその後を描いた「十年愛」の3つのストーリーで構成されています。
「黄色いダイアモンド」だけを読むとだらしない勇にどうしようもなく恋をしてしまった邦彦、という木原さんお得意の共感しかねる展開(ごめんなさい、個人的な感想です)なのですが、おそらく今作品の真髄は「歯が痛い」なんじゃないかと思いました。
「歯が痛い」は勇の息子の俊一が中学生になった時のお話です。
勇を愛する気持ちと、それに相反するように反発する思い。
そこに、いじめという問題が加わることで一気にシリアス展開になります。
俊一に対するいじめ、がどうしても目についてしまうのですが、今作品が描いているのは勇と俊一の家族愛です。いじめられても本当のことを言わなかった俊一の勇への愛情と、言葉が足りないながらも息子を一生懸命かばおうとする勇。
心にグサグサと突き刺さる。
「歯が痛い」で俊一に想いを寄せる同級生の秋森という男の子が登場します。
彼はね、「黄色いダイアモンド」の邦彦です。自分の、俊一に向ける感情が何なのか分からないまま、俊一に執着する。子どもならではの根拠のない万能感、悪意のない善意、そういった秋森の感情や行動が俊一を追い詰めていく様が実にリアルです。
そして、最後は俊一と秋森のその後を描いた「十年愛」。
「歯が痛い」は、すごく中途半端に終わっています。え、それからどうなるの?というところで。旧版にはおそらく「十年愛」は収録されていないと思われます。旧版をお持ちの方には「歯が痛い」の中途半端な終わり方が気になっていた方も多いんじゃなかな、と思われますので朗報です。
視点は秋森くん。
ただただ俊一のことが好きで。
そばにいられなくても、俊一に彼女ができても構わない。
ただ、ずっと好きでいる。
「黄色いダイアモンド」では自分の感情に気づかないまま勇に執着していた邦彦ですが、秋森くんは自分の想いを早い段階で自覚している。その分、彼のしんどさは邦彦よりも強かったのではなかろうか。「歯が痛い」の時はちょっと鼻につく行動もありましたが、「十年愛」を読むと彼の想いがよく理解できます。
「歯が痛い」で勇と邦彦の関係を知った俊一が荒れるシーンがありますが、俊一を変えたのもまた、この二人の父親たちだったんだな、という感じ。
いかんせん木原作品ですから、はい、ハピエン!というお話ではありません。そこがいい。
昨今BL作品と言えばスパダリに、甘々に、ほのぼのに、そういうお話が多いですが、木原作品は違うところに視点が向いています。社会的弱者、と呼ばれる、救われることのない人たちに。できれば見たくない、目を背けたい。
そこに目を向け、真正面から切り込むのが木原作品ならではか。木原作品にしては痛さがややマイルドなので、多くの方に手を取っていただきたいなと思います。
タイトルの「黄色いダイアモンド」ってどういう意味なのかなって思って読み始めたんです。私なりに感じたのは、「価値」というものは人それぞれだということ。黄色いダイアモンドでもトパーズでも、それが仮にその辺に落ちている石ころであっても。
その人にとって価値があると思ったら、それは価値があるものなんですよね。周りの誰が何といおうと関係ない。そんな意味が込められてるのかなー、と、私は、そう感じました。
既刊作に新たな書き下ろしを加えた新装版。
この書き下ろしが全て。
旧版は、ここに辿り着くまでの物語だと思う。
読者の気持ちすら昇華する、甘くて癒される書き下ろしに驚きました。(いい意味)
木原作品では稀な甘さではないでしょうか?
鳩屋タマ先生のイラストもほんわかしていて、作品をよりマイルドにみせてくれます。
とはいえ、理不尽な虐め描写があったり、触れてほしくない気持ちを抉ってきたりと、甘いだけのロマンスでは終わらないのが凄いところ。
上っ面でも綺麗事でもないリアルな愛だからこそ刺さるものがあった。
欠陥だらけで目を覆いたくなる登場人物達。
こんな男もうやめとけ!と思うけれど、人を好きになるのは理屈じゃない。
そう思わせるだけの筆力がある。
小さなエピソードや何気ない会話が物語を構築し、一切の中弛みを感じさせず最後まで一気に読まされました。
執愛、友愛、親子愛…色々な愛が詰まっており、特に子が親を、親が子を思う気持ちに涙が止まらなかった。
愛することを選んだ者と愛されることを選んだ者、それぞれの結末をぜひ見届けてほしい。
先生がツイで「甘々な波が来てる」と仰っていたので
ほうほう、ならば安心安全じゃな
と、完全に油断しきっておりましたが。
え〜〜〜ん
まぁまぁ痛かったよ〜〜
いや、やっぱり木原先生の作品はリアルなんですよね。
BLなのに全然ファンタジーにしてくれない。
邦彦と秋森の独りよがりの愛も、それに対する勇て俊一の拒絶も、登場人物たちの台詞ひとつひとつが刺さる!!
読みながら「木原節が沁みるぜ〜!!」と久々に震えました。
確かに十年愛だけを切り取れば甘々ではありましたが、、、。
しかし、我らはこの癖になりすぎる刺激を求め、今日も木原作品を読むのであります。
表紙のキラッキラしたテンションに騙されてはいけない
表題作の「黄色いダイヤモンド」は、真面目で口うるさいサラリーマン・邦彦が落ちこぼれで子持ちの幼なじみ・勇への長い片思いを実らせるお話です。80ページ弱の作品ですが、“優しさ”についてしみじみ考えさせられて、何度も読み返してしまいました。
勇は深く考えることが苦手なため、お金をだまし取られそうになったり、セックスで邦彦の機嫌が直ると考えて、邦彦を傷つけてしまったりもするのですが、そこには「困っている人を見捨てられない、相手を喜ばせたい」という優しい心があるのだと思います。
涙が止まらない邦彦を残して立ち去ることができず、邦彦の望むまま抱かれる側になる姿は、自分自身を差し出しているようで、読んでいて胸に迫るものがあります。恋人同士になった後、勇が亡き妻の形見の指輪を邦彦にプレゼントする場面では、数少ない自分の大切なものを差し出す姿に胸を打たれます。
多くを持たない勇が見返りを求めず自分自身や自分の大切なものを差し出すことは、誰もができることではなく、すごく尊いことではないでしょうか。
タイトルの「黄色いダイヤモンド」は、そんな勇の優しさを表している気がします。いわゆる勝ち組ではない勇は“ダイヤモンド”ではなくて“トパーズ”かもしれないけれど、その優しさはダイヤモンドの輝きに負けないと思います。それに黄色いダイヤモンドは本当に存在するのですよ。美しい色合いのものは希少価値がとても高いそうです。勇の優しさも同じではないでしょうか。
「教えてあげる」とか「してあげる」といった優しさは、純粋な思いからでも、どこか上から目線になりがちで、相手に受け入れてもらえないものなのですよね。勇のためと厳しくしてばかりの邦彦や、勇の息子・俊一に好意を寄せるお金持ちの秋森くん(同時収録「歯が痛い」に登場)の振る舞いから、あらためてそう感じました。
“優しさ”って、身近な言葉ですが、奥深いなと思います。
木原レーベルのなかでは甘々よりなのかもしれないんですけれど、
レーベル未体験の読者から見たら微糖なのではないかしら…と思ったりしました。好きになるだけ辛い相手を好きになってしまうという恋愛のもどかしさを最終的に救済してくれる度合いがBL糖度の測定値だとしたら、間違いなく本作は高めですけどね。また、いったん読み始めた読者にページをめくる手を休ませないキレッキレな筆力はさすがです。何度かの涙腺やばい!を乗り越えながら夢中で読み耽りました。評価ですが、何度か心震えてしまったので”神”にしました。
いやもう切なすぎませんか…、邦彦。与えるだけの愛情が戻ってこない相手に尽くし続けるという。恋心からはじまった執着だったとしても、もはや執着を超えた尊い行為になってますよね。正直、勇のキャラがキャラなだけに、親が子に対して与える愛のような印象を受けました。勝負ではないけど、どうやったって莉久にはかなわない立ち位置で、それでも勇を愛し続けるっていう腹の括り方が凄いなと。しかも、勇が邦彦にプレゼントする指輪が、、、これ心温まるのか寒いのかちょっと戸惑いました。邦彦って本当に器がでかい、でかすぎる。幸せになってほしい攻ランキングがあったらNo.1に推したいです。
可愛かった勇の息子、俊一の思春期のお話が”歯が痛い”でした。虐めの描写に胸痛めながら、”BLだよね?!”と途中不安にもなりながら、それでも読む手を止めることができず読み切って、”あぁ、この秋森の執着はBLだ!”と納得したのでした。また、勇のいいお父さんぶりに泣けました(成長してる!)。邦彦と勇のR18シーンを見てしまった俊一がぶすくれて、勇に対して、溺れてる邦彦と自分、どっちを助ける?というあるあるの質問をするのですが、”俊一を助けてから俺は(邦彦と一緒に)死ぬ”という勇の名答に心震えました。(邦彦の想いが報われてる…。)
描き下ろしの”十年愛”は秋森視点でした。これで、”歯が痛い”のBLの萌芽が回収されたというか、糖度プラスになってると思います。俊一の秋森に対する態度、正直さゆえの残酷なところは、父親譲りです。俊一の秋森に対してのダイレクトな言葉は、読者の心も抉ってきます…。でも、辛い先にきちんと愛があるから、その先の愛をもとめて木原レーベルを読み続けます。邦彦と勇の幸せそうなその後も垣間見えてホッとしました。つらいこともあるから余計に、ささやかな幸せの偉大さを実感させてくれるような気がします。