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表題作太陽を曳く馬(下)

あらすじ

死刑囚と死者の沈黙が生者たちを駆り立てる。
僧侶たちに仏の声は聞こえたか。
彰之に生命の声は聞こえたか。
そして、合田雄一郎はたちすくむ。

人はなぜ問い、なぜ信じるのか。
福澤一族百年の物語、終幕へ。

作品情報

作品名
太陽を曳く馬(下)
著者
高村薫 
媒体
小説
出版社
新潮社
発売日
3

(2)

(0)

萌々

(1)

(0)

中立

(1)

趣味じゃない

(0)

レビュー数
2
得点
5
評価数
2
平均
3 / 5
神率
0%

レビュー投稿数2

21世紀の合田雄一郎

以前読んだ時は宗教とか芸術とか精神世界の話の長さが苦痛で流し読みになってしまいましたが、今回上下巻読み直し、やはり高村さんの小説は面白いと感じ、前回よりはストーリーの流れを自分なりに理解できた気がするのでレビューをしたいと思います。

「レディ・ジョーカー」までの合田シリーズは90年代でしたが、今作の舞台は2001年。21世紀に入り、雄一郎は42歳という年齢です。警部となり、部下も11歳年下。この吉岡という部下とジェネレーションギャップというか、相性が合わず苦労しています。吉岡君の方も気難しい雄一郎みたいな上司を相手に頑張っている方だと私は思うけど。吉岡は優秀だけど割り切りが早くさめてる部分が多く合田はそれがお気に召さないらしい。以前の部下の森君は雄一郎と同じく陰気で暗い熱血派だったのでウマが合ってたのでしょう。

事件関係者の僧侶との禅問答みたいな長い会話を読むのは今回も難儀でした。雄一郎は真面目で誠実なので難しいインド仏教の本も読んで相手を理解しようと努力します。でもあんまりあの精神世界に同調しすぎるのも洗脳されてしまいそうで心配になりました。

案の定、下巻のラストの方では、性格の悪い検事や弁護士や医者にネチネチ虐められる合田さん。精神的に壊れてしまいそうになって、デリケートな不安定男ぶりは健在という感じでSな合田ファンとしては可哀想に思いつつも萌えてしまったり。

しかしその後彼が取ったのは正しい行動。大阪に住む元義兄に電話して話して泣いてしまいます。元義兄・加納祐介は元義弟の不安定さを目の当たりにし「やはり雄一郎には俺がついててやらなきゃいかんな」と決意を新たにし、「冷血」以降で交流復活したのだと妄想します。

上巻の義兄弟シーンは相変わらず萌え転がされました。今回2人の間に距離があるけど、雄一郎は祐介から電話や手紙がくると、20歳のように心が揺れてざわめくそうです。これを恋と言わずして何と言おうか。いい加減気づけ、雄一郎よ。

高村女史の相変わらずの匂わせで思わせぶりで素晴らしい言葉の魔術の数々にクラクラしました。「長年のおまえたちの感情生活」ってなんやあ!それは(萌)雄一郎は祐介への手紙に「宛てもなくどきどきしている」なんて書くとは相変わらずの天然小悪魔ぶりだなあとか、祐介もテレビのニュースに偶然映り込んだ後姿の雄一郎を見ただけで「ぼんやりしていた」と心配したり、3年ぶりの電話や手紙の交流との事でしたが2人のお互いへの愛は全く色褪せていないなと私には思えました。

このまま「冷血」「我らが少女A」への再読まっしぐらの予感です。何度も読んで良さを噛みしめられる小説があるなんて幸せです。今作の前日譚となる福澤シリーズの前作と前前作も購入。匂い要素は無さそうな高村作品だが、合田刑事も少しだけ登場するようなので頑張って完読したい。

追記…「マークスの山」のDVDの鑑賞レビューを自分の「マークスの山」(下)のレビューのコメント欄に置いておきます。万が一ですが興味のある方はご覧下さい。DVD登録依頼したけど却下されてしまったので(泣)

1

甘食

「太陽を曳く馬」の前日譚となる「晴子情歌」と「新リヤ王」を読了しました。

「晴子…」の方は北日本で戦前戦後の激動の昭和を生きたある女の一生のお話。晴子さんは福澤彰之のお母さんです。女がまだまだ不自由な時代に精神だけは自由奔放に生きた人。旧仮名遣いの文章ですが、若くて聡明な女性のキラキラした感性の溢れる素敵な語り口でした。とはいえ朝ドラとかにはできない隠微な内容でそこが面白い。彰之と遥の従兄弟の関係はほんのりBLチックで萌えました。さすが高村先生。

「新リヤ王」は彰之の父で東北で代議士の王国を作り上げた福澤栄の終わりの始まりのお話。暗いです。けど面白かった。この間選挙が終わったばかりだしタイムリーな感じでした。「太陽…」で福澤一族の悲惨な結末を知ってから読んだだけに感慨深い。親の因果が子に報いといった感じ。下巻で若かりし頃の雄一郎がセリフだけだけどチラッと出てきたので嬉しかったです。

高村薫さん、匂い系じゃなくてもずっしりとした読み応えのお話ばなりでやはり面白いです。

なんとか読了しましたが、遺ったのは寂しさ

上巻に輪をかけて難解でした。
上巻と同様に雄一郎目線で話は進むのですが、宗教的な話を掘り下げる部分が大半なので専門用語や宗教家の名前などが多数出てきます。
内容を理解するのは…多分時間をかけても私には無理だったと思います。
ただ文字をなぞるだけという読書になってしまい、私にとっては苦行というしかなかった。

雄一郎も40代になったからか、元妻を亡くしたからか、祐介と疎遠になったからか、非常に活気が無い様に思えました。
白いスニーカーを履いて、事件を追っていた闊達な雄一郎は本作では見られませんでした。
一刑事である雄一郎が僧侶たちの話についていけるだけ仏教に精通しているのは驚きでした。
年齢を重ねた彼には彼の良さもあるけれど、やはり若かりし頃の危うい鋭さを持った雄一郎に会いたいと思ってしまいました。

下巻も祐介との絡みはほぼ無し。
終盤に雄一郎から電話して、話し、少し泣いたと…。
弱ったときに頼れるのはやはり祐介だけなのだから、また行き来できるような関係に戻ればいいなぁと思っています。

2

甘食

こんばんは。甘食です。「太陽…」読まれたのですね。難解で読みにくかったですよね!義兄弟関係もLJラストであれだけ盛り上がっといて疎遠ってそりゃないよ、という感じです。2人の36歳から42歳までの間に何があったのかとても気になりますが、そこは秘すれば花というか如何様にでも読者が妄想してくれって事でしょうか。

しかし2人にとって大切な存在であった貴代子が亡くなったのはこの本で1番重要な部分でした。この事で離れていた元義兄弟の絆が復活したような感もあります。貴代子さんも兄の想い人と結婚し、雄一郎にはモノローグで愛していなかったと言われ何だか気の毒です。容姿端麗の才色兼備だったのに。晩年が幸せだったことを祈ります。祐介が1人でNYに行くのは寂しいので雄一郎も付き添って行ってあげれば良いのにと思いました。

「冷血」と「我らが少女A」は「太陽…」よりは読みやすくストーリーも面白いです。元義兄弟の仲もかなり改善しています(笑)「我らが…」に至ってはイチャイチャと言ってもいいんじゃないかと私は思っております。かなり年はくってしまいますが、充分カッコいいおじさま達ですよ。

ではまた長々と失礼いたしました。

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