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『左近の桜』
『咲くや、この花』
『さくら、うるわし』
『その花の名を知らず』←New!
『左近の桜』シリーズ第四弾。前作までは短編~中編の連作集でしたが、本作はまるっと1冊1話です。
冒頭は前作『さくら、うるわし』の少し後。二十歳の誕生日まであと数日の桜蔵くん。祖父の墓参りに行こうとバスに乗るのですが、またしても異界に迷い込みかけているのに気付き身構えます。ところが、起きたのはいつものアレではなく交通事故。そして面倒臭いことになったところで突然、高校1年生に上がった年の春の出来事に、話が飛びます。
そういう訳で、本作のほとんどが桜蔵くん高校1年生時代の物語となります。つまりシリーズ第一弾『左近の桜』の約一年前の話ということです。
高1の春、桜蔵くんは柾の正妻・遠子を手伝って祖父(柾の父親)の形見分けをすることになりました。ところが遺品の一つ〈ざくろ〉と表書きされた箱の中身がないことが発覚。箱の中身は〈ざくろ〉という銘の茶碗。その行方に遠子が興味を持ったせいで、桜蔵は〈ざくろ〉を探してあっちこっちを訪ね歩く羽目になりました。
行方不明の茶碗〈ざくろ〉とその対となる茶碗〈しろうづ〉、そしてその二つを探している途中で見つかった茶碗〈朱薇(あけび)〉。これらを探す過程で桜蔵くんの実家・左近家と、柾の実家・白鳥家の系譜が明かされていきます。また、戸籍上の両親のどちらとも血の繋がりのないはずの桜蔵くんの系譜が、左近家の系譜に絡みつくように存在することも明らかになります。
正直、一回読むだけでは何がなんだかさっぱりわかりませんでした。なにしろ〈ざくろ〉〈しろうづ〉〈朱薇〉という三つの茶碗と、それぞれ同じ銘の盆栽とお酒があったり……。また、何度もお茶会が催されたり、土砂降りが降ったり、同姓でしかも似たような名前の人物が沢山登場したりと、読者を惑わせる要素がとても多いんですよね……。
それでもめげずに二周目して思ったのは、『左近の桜』というシリーズ名ゆえなんだなぁと。「左近桜」は京都御所に植えられている桜のことで、千年も前から枯れる度に新しい桜を植え替えて現代まで存り続けている桜です。『左近の桜』シリーズがマンネリにも思えるほど似たような物語やエピソードをいくつも書き連ねたものなのは「左近桜」の生き様を小説という形で表現したものなのだろうなと。同じことを何度も繰り返す、というのが要なんでしょうね、しらんけど。
繰り返し要素が多いせいでストーリーが解りづらいですが、これまでのシリーズよりはわかり易くなっている所もあります。『左近の桜』の頃から、作中にときどき謡曲や和歌や漢詩、神話などが直接引用されたり物語のモチーフとなっていることがあるのですが、前作までは原典が何なのか明かされることがあまりなかったんですよね。でも本作では謡曲『定家』と式子内親王の詠んだ歌が引用された部分には、そうと書いてあるので。『左近の桜』のときみたいに「『瓜食めば』とか『松虫』とか何のこと???」と、一々ググりの旅に出なくて済む親切設計です……。
あらやだ、私ったら(非)BLのレビューを書きにきたはずが考察厨みたいなことばかり書いて……(考察厨です)
BL的なことを言いますと、今回は以前のようなBL的なえっっっちな話はほとんどありません!!
残念ながら……。
なにしろ桜蔵くんがまだ15歳の頃の話がメイン。当時の桜蔵くんは「成人」前……亡霊もエロ自粛をせざるを得ないお年頃です(たぶん)
それでエロは乏しいですが、少し子供っぽい桜蔵くんと少し若い柾の親子らしいじゃれ合いがしばしば描かれており、微笑ましかったです( *´艸`)
左近家と白鳥家の過去が判明し、桜蔵くんの出生の謎もちょっとだけ解けかけたので、次巻が楽しみです。