イラスト付き
前作で描かれた監禁事件直後から始まる表題作と、篠口の新人時代の話の二本立て。表題作は、ほぼ全編黒澤と篠口二人の触れ合いで、篠口の再生の物語かと思う。後半は、公安で不向きを自覚する篠口が、黒澤に助け出されるまでのお話。
表題作は篠口に寄り添う黒澤の献身ぶりがすごすぎる。どんなに強い愛情を持っていても、ここまで忍耐強くそばにいるのは大変だろう。下手をすれば本人も壊れてしまう可能性があるが、黒澤なら大丈夫だと思える安心感がある。
黒澤はある程度の犯罪への慣れと心理学の心得があったのも良かったのかな。察しの良さはさすが。何度も篠口を“繊細な男”と表現していて、大事にしていると感じられた。マッサージまでするキャラだったのは驚いたが。愛ゆえか。黒澤も人間だったんだな……っていう。
篠口の心理描写はやっぱり辛い。記憶の回路が上手くつながっていない感じが描かれているのはすごい。黒澤に癒され、少しずつ自分を取り戻していく様子が伝わってきて、とても良かった。
後半は過去話。黒澤が公安から出してやったと言っていたときから詳細が気になっていたので、読めて良かった。
できれば篠口視点で、具体的にどう合わなくてそこまで疲弊してしまったかを知りたかったかな。黒澤視点のさらっとした推測で終わってしまい、一番気になっていたところが掘り下げられず残念。
それにしても、ここまで1巻と密接に関係する内容の2巻が、こんなに年数を経て発売されたことに驚く。1巻が完全に前振りというか前段というか、この二人を描くために必要な事件としてやっと昇華された感がある。
「墨と雪」は「甘い水」のような作中でのタイトル回収があるのかな。下巻も楽しみ。
「墨と雪」を読んだのが2017年、それから7年か…という感じで、読み返しはせずに本作を読んだのですが。
そうだった…篠口に何が起こったのか…
7年の空白が無かったように蘇ってきました。
つらい…
時間的に言えば一週間、だけど死ぬほど、いや死よりもつらい傷を負った篠口。
この「2」の上巻では、身体の傷は勿論、恐ろしいPTSDを背負ってしまった篠口の葛藤、見守るしかない周囲の静けさ、あの帝王のような黒澤の深い想いがじっくりと描かれています。
この、篠口の描写が。読んでて苦しい。
犯罪被害者、中でも性的な被害は死ぬよりつらい、だけどサイコにロックオンされて生死を握られ、死にたくないと本能が叫んだあの時。
ここで死ぬのか?、その究極を何度もフラッシュバックする篠口の極限を追体験してしまうような読書体験。
黒澤がどんなに優しくても。
黒澤がどんなに甘くても。
ここでふと前巻を思い出す。2人は10年来のセフレだった。なのにその時は篠口は黒澤に心を開いてなかったんだな…
こうなってしまって初めて篠口は黒澤を本当に見ている…そんな風に感じました。
「ストームグレイの行方」
公安の研修で黒澤が篠口を見初めた頃のお話。篠口は他人行儀を崩さない。
だが公安という仕事には疲弊を隠せず、黒澤は篠口を壊したくない、と行動する…
下巻へ続く。
もう、1巻を読んでから続きを読みたお気持ちが抑えられず、こちらの2巻も朝3時から読みました(途中で寝落ちしたけど…)。
篠口の経験したことが辛すぎて、感情移入してしまってどうにもこの気持ちの持って行き場がない…この週末はこんな気分でずっと過ごすことになりそうです;
あまりにも傷ついた篠口が、本編終盤、黒澤を誘うことで自分を傷つけよう・怖そうとする姿が痛々しくて;
そして性犯罪被害者が、事件後の報道や聴取でどれだけダメージを受けるのか、物語はフィクションだけれど真に迫った描写に色々考えさせられて、今も頭の中がグルグルしています。
下巻で、どんなふうに篠口が這い上がっていくのか、、黒澤の包み込む愛に守られてどうか、心から安心して過ごせるようになってほしい、と願わずにはいられないラストでした( ; ; )
1巻のラストより少し前、篠口が救出された直後からのお話。攻め視点と受け視点が入れ替わり、双方の気持ちがよくわかる描き方です。
冒頭、犯人袴田への黒澤のどす黒い怒りが、いかに篠口が黒澤にとって大事な存在かを感じさせます。
1巻にもあった子守唄のシーン。
黒澤視点で丁寧に描かれます。
黒澤の優しさにウルっとします。
そして二度と誰にも傷つけられないように、今度こそ手に入れようという、黒澤の決意にキュンとさせられました。
そして受け視点。篠口は心も体も酷く傷ついており切ないです。監禁時のことがトラウマとなりPTSDの症状が出てきます。そんな篠口に黒澤が優しく寄り添います。
しばらく入院していた篠口が、年末年始に一時帰宅することに。そこでも黒澤が付きっきりで面倒を見る。淡々としつつも甲斐甲斐しく世話をする黒澤に、またもやキュンとさせられます。
ゆったりした時間を過ごす二人。篠口も少しはリラックスできたようでしたが、あることをきっかけに、フラッシュバックが。ここでも黒澤が淡々とした優しさで、篠口に寄り添います。
終盤、袴田から受けた心の傷から自暴自棄のようになり、黒澤を誘う篠口。ネガティブな感情に囚われている姿があまりにも痛々しくて、読んでいてつらく切ないです。
そして黒澤は優しく、篠口を癒すためだけの行為をする。黒澤にたくさん甘やかされて、ようやく安心することができた篠口にほっとしたところで、上巻本編が終わりました。
中編の書き下ろしも収録。
【ストームグレイの行方】
こちらは攻め視点のみ。
篠口と黒澤が初めて出会った頃のお話。
公安の黒澤の部署に篠口が配属され、二人が上司と部下として関わっていく様子が描かれます。
公安について、かなり詳細に説明されているのが大変面白いです(どこまで事実に則するかはわからないけれどw)。
そして初めての二人の濡れ場が。
かなり積極的な篠口に、少し驚きました。
かなりのページを割いて、丁寧に詳細に描かれていて、とても官能的です。
初めは黒澤を手玉に取るような篠口ですが、後半は篠口をなんとか陥落させようとする黒澤と、それに懸命に抗おうとする篠口の攻防が。詳細にエロチックに描かれていて、ドキドキしました。
終盤では、表現はぼかしていますが、黒澤が過去に元妻を愛して、しかし破綻してしまったこと、そして篠口に彼女を重ねて、助けたいと思っていることが読み取れます。そんな黒澤の心情が切ないです。
最後に黒澤のあのセリフ「助けてやろうか」。
何度か出てくる象徴的なセリフです。過去にこういった経緯で発せられたのだなと、感慨深いラストでした。
上巻は傷ついた篠口を、黒澤がとことん甘やかして、癒していくお話でした。
下巻の展開は全く知らないので、読むのが楽しみです!
無印巻から引き続きメイン・キャラの篠口、黒澤が魅力的だけに物語の吸引力に抗えず、一気に読んでしまいました。
やっぱりBLものはキャラにハマった時の威力がすごいなーと実感しました。
「墨と雪」の上巻では、無印巻で事件の被害者になり、心身ともにズタボロになった篠口がセフレ(?)の黒澤により少しずつ心を開いて再起していく過程が描かれていました。
篠口の心の揺れ動きや葛藤が丁寧に描かれ、特に劇的な大きな変化はないものの、淡々と被害者の立ち直るまでの日常の機微が描かれていて、まるでああいった被害者の事件後の再起を描くドキュメンタリー映像を見ているかのような現実感が漂っていました。
こういう題材をじっくり読めるのはBL小説ならではの贅沢さがあります。上巻では、少し光が見えてきた…という所で終わりました。
これからという所で終わってしまい、気力が抜けましたが、同じ巻に収録されている「ストームグレイの行方」は「墨と雪」の陰鬱なムードとは一転、とても面白く萌えまくりました。
篠口と黒澤の馴れ初め、二人の距離の縮まったきっかけ、篠口ので公安生活が事実上短かった理由等それぞれのエピソードが最高でした。
篠口も黒澤もキャラが立っているだけに二人のカップリングに萌えて萌えて…。
もともと公安物には惹かれる要素が多いですが、この小説では短いながらも公安の実態や警察組織のことなどの説明が分かりやすく説得力があり引き込まれました。
非常に質の高い濃縮した短編で楽しめました。
公安に配属された篠口に対して、もし黒澤のように気にかける人物がいなければ、篠口が公安の中でどうなっていたか…と思うと胸が痛みました。
適性がなくても嘆くことはないんだなーと、自分を活かせる、自分に見合う場所を見つける事が大事だと思いました。
それにしても篠口が他のメインシリーズでは、当て馬の扱いを受けていたとは信じられないです。主役の王格があるのに…。
時には脇キャラやサブキャラの方が王道な主役キャラ達よりいい味を出している時があります。サブキャラの魅力を最大限に引き出されるスピンオフは大歓迎です。
最近WEB小説や海外小説を読むことが増えましたが、日本の大御所作家さんの貫禄と偉大さを感じる一冊でした。