イラスト付き
「墨と雪2」で、上巻と同時発売された下巻になります。
雑誌掲載の続編が160ページ程度。
他、神宮寺が主役になる短編が一編に、二人の過去のエピソードを語った短編が一編、更にその後の二人を語った短編とSSが二編書き下ろされての、とってもお得で盛り沢山の内容になってます。
個人的に、遠藤が好きで好きで仕方ないんですよね。
そして、宮津との漫才としか思えないアホなやりとりも大好き。
書き下ろしでそれが読めて、めちゃくちゃ喜んでます。
本編がかなり重いだけに、はぁ、楽しい!と。
ちなみにですね、作者さんが、当初はシリーズの予定も無く書き始めた為に人間関係が一部ねじれてる(矛盾がある)とおっしゃられてまして。
ただ、このシリーズが大好きで全部繰り返し読んでるんですけど、その矛盾点がどこか全然分からないですよ。
どこもおかしくないように見える・・・。
こう言う時、アホは幸せですな。
矛盾点に気づいてる聡明な姐さん方は、そこにそっと蓋をしといていただきたいとの事です。
で、内容です。
黒澤の献身により、心身の傷を癒しつつある篠口。
長期の入院を経て、元の生活に戻るべく努力を重ねているんですね。
そんな中、いよいよ職場への復帰が決まりますがー・・と言うものです。
えーと、前巻までが救出から黒澤との関わりを経て、自分を取り戻すまで。
今巻が日常を取り戻しと社会への復帰と並行して、長らく身体だけの関係であった二人が、本当の恋人になるまでー。
これが語れます。
で、こちら、少しは明るい内容になってるかと思いきや、実は前巻同様、非常にしんどくて重いものになります。
こう、犯罪被害者としての篠口の心情をしっかり掘り下げ、丁寧に語られるワケですが、今度は前作から一歩前進。
社会復帰する。
しかし、それ故の苦悩だったり葛藤だったりが語られて。
篠口ですけど、その優しげな見た目に反して、かなりのプライドの高さだし負けず嫌いでもありますよね。
刑事である彼にとって、職場への復帰はまさにトラウマを直接刺激するものなんですよ。
犯罪や暴力事件に向き合いと言った具合に。
その上、同僚は皆、自分の身に起きた出来事を知っているー。
こう、少し調子を取り戻したと思いきや、フラッシュバックに苦しむ・・・。
作者さんが文章力に優れているだけに、パニック発作に苦しんだりする主人公の描写が非常にリアルです。
読んでて、こちらまで苦しくなってくる。
ただこれ、しつこいですが、寄り添い続ける黒澤の姿がとにかく素敵で。
こう、シリーズの他作品を読まれてる方はご存知でしょうが、彼はかなり得体が知れないと言うか、怖い男って印象だったんですよね。
でも、懐に入れた相手に対しては、ここまで献身的だし甘い男だったんだなぁと。
そして、ちゃんと弱い部分も持っていた。
篠口ですが、スーパーマンのような黒澤のサポートにより、劇的に立ち直って過去を克服する!とは行かないんですよ。
黒澤はスーパーマンじゃなく人間だし、篠口は篠口で過去を払拭とは行かない。
でも、確かに希望は見えて、前に進む事が出来る。
自分を全て受け止めてくれる相手がいるならー。
前巻のレビューでも書いたんですけど、篠口が黒澤に問う「もし自分に延命措置が必要になったらー」の答えがですね、本当に限りなく優しいんですよ。
私はこのシーンを読んだ時、ブワッと涙が出ちゃいましたよ。
とてもあたたかい、ラストでも。
薄墨色の寒く辛い冬を経て、ようやく季節は春なんだね。
ちなみにその後の二人が語られる書き下ろしで、甘さが補給できます。
保護犬を引き取って飼っている二人になりますが、もうすっごく甘い。
そして、アダルト。
二人の艶っぽいやりとりに悶絶ですよ。
そうそう、篠口ってこういうとんでもないタマだったわ。黒澤の言うとおり。
犯罪や犯罪被害者をネタにしていいものかってお声はあったりするかも知れないんですけど。
ただ、BLとしてウケる為じゃなく、篠口と言う一人の人間の人生を真摯に追った結果、こういう題材になったんだろうと思うのです。
本当に、とても素晴らしい作品だと思う。
たっぷりとボリュームのある上下巻ですが、それでも終わってしまうのが惜しくて、一ページずつ大切に読み進めました。6年という時の流れは待つ身には永遠のようでも、こうして続巻を手にすることさえできれば、一瞬でまた物語の世界に戻ってゆけるのです。世界は大きく変わり、おそらく誰にとっても多難なこの時代に、たゆまず書き続けてくださったかわいさんにまず感謝です!!
篠口が心身に負った深い傷。目に見える部分は時とともに癒えても、心の奥底はまだ鮮血を流し続けている。とりわけ、自ら「生きるため犯人に体を差し出した」記憶が、彼を苛む。周囲の誰も、もちろん黒澤も、あの極限状況にあった彼の選択を責める者はいないのだけれど、ただ彼自身が自分を許せないのだ。
事件前の彼は、その上品で清潔な外見とは裏腹に、ベッドの上ではかなり奔放な一面もあったけれど、それはあくまで自分の意思で選んだ相手と楽しむことが大前提で、理不尽な暴力で踏みにじられて平気なはずはない。いくら現職の警察官で犯罪被害者の心理に造詣が深くても、わが身に起こったこととなると理屈では処理しきれない。
荒れて自棄に走ったり、心の不調に再び身体も引きずられたり、不安定な篠口を、黒澤は実に辛抱強く見守り、寄り添う。超多忙なはずなのに時間も労力も惜しみなく差し出して、傷も痛みも丸ごと、篠口の人生を引き受けるという強烈な意思表示をしてみせる。これまで「公安の切れ者」のイメージが強すぎて、「目的のためには手段を選ばない」「人を駒としか思ってない」酷薄な人物像が出来上がっていた彼ですが、元妻との関係性も含め、ひとたび思い定めた相手には徹底的に尽くし倒したいタイプだったんですね。いい意味で裏切られました。
「苦しいなら助けてやるって言っただろう」繰り返し彼が篠口にささやいた呪文。それは掛け値なしの彼の本音だったのに、そうと気づくまでずいぶんかかってしまった。そういえば彼のファーストネーム「一誠(かずなり)」も、まさに名は体を表してるよね。出し惜しみせずにせいぜい呼んであげてほしいわ、篠口さん。(黒澤が陰でこっそり篠口を「雪巳さん」って呼んでるのも萌える。これまたいつか直接本人に向かってそう呼んでもらいたい)
まあ黒澤が周囲にいい印象を持たれてないのはこれまでの自業自得でもあるんでしょうけど。個人的には「Zwei」の山下クンが黒澤と一緒にいた篠口を見かけて「弱みをつかまれたり脅されたりしてないですか?」って慌てて安否確認に来るのがおかしくてかわいかった。黒澤が篠口に歌う激甘な子守唄を、山下にも聞かせてやりたい。さぞ仰天することでしょう。
黒澤の献身もあり、日にち薬で篠口は一時は到底無理かと思われた職場復帰を果たす。はかなく脆い部分もありながら、内側に強靭なオスのプライドも秘めている、一筋縄ではゆかない、そこが篠口の一番の魅力でもあると思います。そしてここまで、篠口とともに長くつらい道のりを歩んできた読者(とかわい先生?)に、円陣さんから最高のご褒美がっ!! 篠口のアサルトスーツ姿。この人の繊細な美貌が機能重視で武骨な衣装に映える映える!! 隣に描かれたのがまたオス感全開の神宮寺なのでさらに効果倍増。本作のイラストは表紙から裏扉までどこをとっても絶品揃いで、絵師さんの気合のほどがうかがえるのですが、特にこの一枚はヤバい。私が警視総監なら絶対新卒採用のポスターにする。
墨と雪計3冊だけで結構な分量あるのでアレなんですが、まだお読みでない方には、最低でも「甘い水」、できれば「Zwei」「天使のささやき」など寮シリーズを読破の上で本作にチャレンジしてもらいたいです。篠口の生きる警察という特殊な世界や、彼を取り巻くさまざまな人々の想いが、きっと生々しく立ちあらわれてきてより強く物語の沼に引きずり込まれることでしょう。
上下巻一気読みでした。読み出したら止まらなかったです。私がBL小説を読み始めた頃に好きだった世界がここにある。スピンオフ作も含め事件の事や警察組織についてまでこんなに細かく書いてくれる作家さんは、最近ではなかなかいらっしゃらないから貴重な存在。かわいさん、仕事をセーブされてたみたいですが、これからもついていきます。
ストーリーはズバリ、トラウマからの再生。受けの篠口は前作で変態に監禁され心身共に痛めつけられ本当に恐ろしい目に遭いました。いくらエリート刑事とはいえなかなか立ち直れなくて当然です。それに心優しく、焦らせずに傷が癒えるまで誠実に寄り添う攻めの黒澤。篠口がフラッシュバックを起こして弱って電話してきた時、「そこを動くな。今すぐ行くから待ってろ。」ってシビれる。スパダリのお手本です。共にエリートでカッコいい。下巻では篠口も少しだけ元気になってきて無事にお清めエッチもできました。良かった!
円陣さんのイラストの篠口がまた天使のように美しくてうっとりです。髪や瞳の色素が薄くて色白で背が高くて痩せ型で名前が雪巳。素敵な受けの条件を全て満たしてます。最後の方に短編がいくつかあって犬の前では黒澤が「雪巳さん」って呼んでたのめちゃ萌えた。犬も美しい男達のカップルの家族になれて幸せそうで良かった。
感無量で読み終えました。本編自体も希望を感じる締めくくりでしたし、同時収録されている複数のSSについても、暗く重い事態からの夜明け、またその後の盤石な二人の絆をうかがわせる甘辛両方の味わいを備えたものに感じられました。深い満足感と同時に喪失感も味わっております…
上巻の方で少しずつ篠口に対する黒澤のスタンスが暴露されているので、篠口が見せる変化に注目して読み進めていったのですが、下巻は黒澤の回ではないかと思ってしまったのはわたしだけでしょうか。黒澤びいきの方には驚愕の事実とともに、フッ…やっぱりね…。あたしの見込んだ男だけあるわ‼︎(心の中で高笑い)みたいなリアクションになるとかならないとか…。
時々攻め厨になりがちな自分としては、やっぱり大人のイイ男には哀愁を背負って欲しいな〜と、そう望んでしまうのは、もしかしたら作者様の攻めキャラたちにそう教育されてしまったからかもしれない笑。黒澤も苦み走った色気と哀愁漂うよき男でございました。
終盤、ワンコちゃんが出てきます。犬好きさんにとっては胸に迫るような、切なくもあたたかいエピソードがたまりません。篠口の愛情深すぎる一面を描いたシーンともいえますが、彼について不思議に思っていた部分にヒントをもらえた感じです。
篠口は過去に浅香と、浅香の面影を重ねた遠藤に思いを寄せていましたが、この二人はどちらかというとBL的に受け身の雰囲気があって、篠口が黒澤と相対した時とは逆の包容力というか、母性のような慈しみ感溢れる思いを彼らに抱いているような印象でした。おそらく篠口はどちらもイケるんだろうなと思いますが、彼の中の男性性と女性性のランダムな表出が危うさとなってとてつもない魅力なんだろうなと…。
なにはともあれ、命を賭した職に身を投じる男たちの群像劇は一件落着。血を分けた家族よりも濃い絆を結んでいく男気に溢れたキャラクターたちに悶えたくなりましたら、まずは『天使のささやき』からお手に取ってみてください〜!
下巻。雑誌掲載分160Pほど+小編3つ+あとがき+小編1という内容。ぐぐぐぐっとしっとり甘めになった超ご褒美本と思う1冊です。何回も読み返したくなる、するめ本でもあります。甘いのは正義。アサルトスーツも正義。おかえりなさい篠口。神×100。
篠口が病院に戻る日の朝から下巻がスタート。一時退院して表情が変わったので、担当医とも相談して黒澤が一緒にいるんなら退院オッケーということになり・・と続きます。ぬるぬるっと黒澤に絡め取られていきます、篠口。
攻め受け以外の登場人物は
神宮寺×遠藤、宮津、谷崎(おっさん、泣かせるんだわ)、平(狙撃担当、あー気になる)、史子(黒澤の元嫁)、山下(Zweiに登場)、レイディ(二人の飼い犬になるコッカースパニエル)。レイディいい子。
++ 好きだったところ
黒澤の「もう待たない」宣言を受け入れ、「嫌いではありませんよ」等と小生意気なことをいう篠口が大好き。色事シーンになったら薄く微笑みながら、黒澤を追い上げる指づかいをするらしい篠口が大好き。レイディに「僕たちと一緒に暮らしてくれない?」等と甘く囁く篠口が大好き。わかりやすいとは思えないキャラなんだけど、上下巻でるまでの間読み返しながら待っていたからか、先生の筆力なのか。息遣いまで思い描くことができるような気がします。
なんといっても、二人の穏やかな、たまに小さく言い合いしたりする愛情が大好き。黒澤が「篠口の好みからは外れている」と自覚しているところもまた大好き。二人が爺さんになっても公園を仲良く散歩している図しか思い描けないです。篠口が大切にしていたカップを割った等の理由で篠口に拗ねられて、あわあわ黒澤が新しいカップ(アンティークとかでは)を探すとかしないかなあ・・・と妄想してしまう大好きな二人でした。いつかまたこの二人に出会えることを夢見て。
以下は小編の内容をコメント。
暁
篠口から電話を受けて、袴田の別荘を見張っていた前夜~突入~そのあと見舞いに行くあたりのSITの皆さんの様子。主に神宮寺、遠藤。神宮寺、不器用なんだけど、あんたもいい男よね、と再実感。
雨の降る夜は・・・
黒澤33歳、篠口が平河寮を出て購入したマンションに招き入れることになった6月のある日のお話。黒澤も凹む日がある。
レイディ
事件から1年あとぐらい。黒澤のマンションでレイディと二人が一緒に暮らす様子のお話。レイディは篠口にそっと寄り添って本当に嬉しい限りです。レイディを甘やかしている篠口を見てみたいーっ。「もっと悪いこともできる」という篠口の指づかいは遠慮して見ないようにするから、部屋の観葉植物になりたいです。
ウィークエンド
秋口のある週末。手作りローストビーフと、ウィークエンドシトロンというパウンドケーキを作って、黒澤の誕生日を祝う二人とレイディのお話。美味しいものや、気に入ったもの、気持ちのいいことなどを大切にする篠口がほんとに愛おしい。
ああレビュー書き終わっちゃった。いつまでもこの二人の世界に浸ってたいなあと思う上下巻でした。かわい先生、円陣先生、出版社様、本当に出してくださって有難うございました。