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乾いた空気に砂塵が舞う、南米風の架空の国。
「天国に近い街」と呼ばれるミノシエロ。
ガラクタばかりを集めた古道具屋を営むジャレスの元に、どさくさに紛れて不用品と共に客が押しつけていったのは褐色肌の痩せた生きもの。
ひょんなことから殺し屋として生きてきた青年を引き取る事になったジャレスと、殺ししか知らない青年・ルカのお話。
こちらの作品。もう数年ほど前になる雑誌掲載時に1番心惹かれたお話だったのを思い出しました。
良い意味で砂原先生っぽくないんです。でも根っこには先生らしさもあって、なんだか新しい感じなんですよ。
ラテンの空気を感じる異国。暴力や銃声は日常茶飯事で、道端にはどこの誰なのかも分からない死体が転がっている。
日常的にそういった危険が身近にある、ヒリヒリした背景の中で繰り広げられるのは危険や暴力とは真逆のもの。
決して広くはない古道具屋でのなんの変哲もないごく普通の穏やかな生活風景が綴られていくわけなのですが…ジャレスとルカの両視点で語られる2人の日々と、どことなく乾いた世界観に、ページをめくって読み進めていく内に気が付けば魅了されてしまっているんです。すごく面白かった。
産まれてすぐにゴミと一緒に捨てられていたルカ。運良く生き延びることが出来たけれど、殺し以外のほとんどを知らない寡黙な青年です。
頭が良いやつほどいなくなる。余計な知識は付けず、言葉は少なく、忘れやすいくらいが丁度いい。
ずっとそんな世界で生きてきたわけですから、殺し屋ではない彼は言わば赤ちゃんのような真っさらな状態。
ジャレスとの生活を送る内に徐々に人間らしくなっていくというか、情操教育を受けていくというか…これがとても良くてですね。
それと同時に、不用品と共に置かれていたちょっと迷惑な存在だったはずのルカが、ジャレスの中でも形と重さが少しずつ変わっていくのが分かるのです。
分かりやすい糖度や香りを求めるとちょっと違うなと首を傾げるかもしれませんが、静かに育つ名前を付けることが難しい愛のような何かが味わい深く、しっとりと読ませてくれる素敵な作品でした。
印象的には、ほんのり映画・レオンのような雰囲気。
なぜそう感じたかは読めばきっと分かってくださる方もいるはず。
街の名前や古道具屋といった設定にも後からなるほどなと思うところがあり、後半のさり気ない伏線を含め随所に上手さを感じますし、夢中になって読ませてくれるベテラン作家さんの筆力の高さに唸ります。
個人的には前半の方が好みでした。けれど、新規書き下ろしとなる後半部分では甘みも出ていてこれまた素敵。
始まりはガラクタばかりの古道具屋から。やがてお互いがポケットに入れるには少し大きな存在になっていく。
天国に近い街の片隅で営まれる、不器用な男2人の生活がなんとも心地良い1冊でした。ストーリー重視の方はぜひ。
久々に泣いた小説。長くこの物語の空気に浸っていたかった。めちゃくちゃ良かった!
日常の中に発砲音が溶け込んでいるような、遠い異国が舞台のお話。古道具屋の店主と捨てられた元殺し屋の少年、かと思いきや店主も実はワケありで――?という、メイン二人はどこかが欠けた者同士だった。
ジャレスが心に負った傷はとても分かりやすいものだったが、そこにしっかりフタをして生きているために、ルカ視点で見ると内面がとても分かりにくい。元々そんなものを探りながら生きてこなかったルカに読み取れるはずもなく、とてももどかしい。
ルカの素直さ・無垢さは背景を考えて切なくなりながらも、とても可愛かった。必死にジャレスに応えようと頑張る姿が良い。危なっかしさにハラハラするのはジャレスも同じだったんじゃないかな。ジャレスの元を去る際に、最後に選んだのがナイフじゃないところも良かった。
ジャレスはルカとは対照的な成熟加減が厄介だと思った。心を動かすことへの抵抗力がすごそう。ギリギリまで抵抗して、危険からルカを遠ざけて、やっと受け入れるシーンは感動。ルカの拙いからこそ深く伝わるストレートな告白も泣けた。
クライマックスへの心理描写の畳み掛けと疾走感が素晴らしかった。砂原さんのこの書き方がめちゃくちゃ好き!心も体も全力で走って相手に向かっていく感じ。このシーンだけでも神。
後半はルカ視点で二人が心から恋人になっていくお話。流れとしてはよくあるBLかも。旅立つ二人を見送った感動の余韻の中で読む続きの物語は、どこかふわふわしていて、気持ちの良い読み心地だった。
乾いた空気を感じさせる情景描写も楽しく、トリップした気分で読めた。ファンタジーでなくても自分にとっては十分に非日常で、だがこの世界とは地続きで、もしかしたらこんな二人がどこかにいるかもしれないと想像できるのが良い。
特に前半のお話は何度でも読み返したいと思うくらい好き。面白かった!
文句なしに読み応えのある作品でした。
異国情緒溢れるストーリーは私の語彙力は褒め称えられないほどの描写力。出てくる料理や民芸品をググったりして、現地の景色を想像しながら読むのが楽しかった〜!
特に好きだなと思ったのは、ジャレスの元恋人の女性の描き方。
BLだと『過去に付き合った人はいるけれど、こんな気持ちになるのはお前が初めて…』的な描写が定石かと思うんですが、そうではなくて、過去に誰かを愛した経験があるからこそジャレスがルカに抱く感情も愛なのだと分かる…という表現が切なくて優しくて、二人の関係に説得力を持たせていてすごく良かった。
ルカに恋人のことを訊かれて、『元』恋人な、とジャレスが返すのも、彼の優しさを感じられてきゅんときました。
何もかもが初めてなルカにジャレスが惜しみなく注ぐ愛、『こんな気持ちは初めて』がこれからたくさん起こるだろうその後の彼らを妄想するのも楽しい。
最近砂原先生は同人誌出してない印象ですが、アフターエピソードがあったらぜひ読みたいなあ。
好きな要素しかなくて悶えながら一気読みしました。
陽気な人々に反して暴力と銃声が鳴り響き、常に〝死〟と隣り合わせな街・南米が舞台。
そんなアウトローな設定ながらも、【心に傷を抱えた世捨て人×無垢でいたいけな殺し屋の青年】の不器用で優しい交流に心が満たされる〝愛〟のお話でした。
何と言っても、初めから甘々じゃない所が凄く良い!
〝甘々になるまでの過程〟が大好きなので、その過程を存分に味わう事が出来て満足感が半端ないです
初めは、ガラクタ同然に売りつけられたルカを「面倒事に巻き込まれた…」と疎ましく感じでいたのに、最終的には無くてはならない人生の相棒になっていて……この2人の関係変化にめちゃくちゃ萌えました*
そして、攻めのジャレスが性癖すぎる……!
心に傷を負った草臥れた男性が大好きなんで、もう…気怠げでやる気の無い、世捨て人な雰囲気に1発KO
無気力なのに、溢れでる色気が半端ない……
無垢で無知なルカに房中術を教えるシーンは、何処となく〝子供に悪いコトを教える大人〟のような背徳感が漂っていて、ひたすらドキドキしました♡
一方、幼い頃から裏組織で生き延び、感情を知らない〝元殺し屋〟のルカ。
臍の緒がついたまま、ゴミ溜めに捨てられていたルカの
——命は生まれたときからずっと空気のように軽い
と言う表現が、壮絶な人生を物語っていて胸が痛む…
そんなルカが、冷たく突き放しながらも何処か優しいジャレスと接する内に、ゆっくり感情を知っていき…初めて他人から与えられる〝愛〟を知り、恋をする。
「死ぬか、生きるか」のモノクロだったルカの世界が、鮮やかに彩られていく変化にじんわりと癒されました。
初めての感情に戸惑いつつも、止められないルカの想いが初々しくて可愛い一方で、愛を知ってるからこそ、愛する事を恐れるジャレスの絶妙な距離感が焦れったい……!
前半から散りばめられた伏線回収と、見事なタイトル回収に拍手が止まらない、読み応え抜群な〝孤独な男達〟の純愛作品でした。是非!
パキッとした青空が印象的な表紙、中南米を舞台とした、砂原先生の作品です。
シカリオとは?と意味を検索しなくてよかったです。多少のネタバレになってしまうかも。
正直、最初の50ページ目くらいまでは、なかなかのめり込めず。
とにかく、ジャレスもルカも無口で。
だから、どんな人なのか、何を考えてるのか、攻め受けともにとっかかりがつかめなくて。
幼い頃から殺しをしてきたルカ。
殺し以外に、何もできない。
生きるためには、感情を持たず、何かを考えずにいたほうがいい。それが出来れば生き延びる。出来なければ死ぬ。そんな世界で生きてきたルカです。
でもある時、雇い主から、ジャレスの古道具屋に不用品と共に置いていかれ、ジャレスにとっては騙されたようなものだったけれど、結局邪険にもできず、商品と並べて陳列するように、ルカを店に置いておくことになりました。
ルカに「生きる」ことを教えるジャレス。
読み書き、計算。自分の気持ちや考えを持つこと。
そして、生きていくための仕事として体を売るならば、とルカにセックスの手ほどきをすることになります。
ルカはお仕置きとしてのセックスしか知らないので、まずは自分が気持ちよくなることを教え、そこから男の煽り方、実際のテクから表情や喘ぎかたなんかも身につけさせようとします。
ジャレスの指導が結果的に言葉責めみたいな感じでエロくて、ドキドキさせられました。
身体を触れ合わせたり、店番の合間に勉強したり、料理が得意なジャレスと美味しい食事をとったりしているうちに、ルカは根が優しいジャレスに好意を抱くのですが、感情を知らないルカなので、その気持ちが恋であることにも気づかないのです。
ルカがもどかし可愛くて!
気持ちの変化とともに、世界が色付いていくように、きれいな景色だとか、お店にある商品だとか、鮮やかな描写が増えていくのも素晴らしいです。
ルカの目にうつる世界が変わっていくんです。
お話の最初のほうは、あまり入り込めないと思ったけど、それもそのはず、抑えめにして、この色づき方を出させるためだったのかな、砂原先生さすが!と思ったのでした。
実は同じようにジャレスの気持ちもルカに向いていくのですが、ジャレスにも過去が。
シカリオ。彼もまた元殺し屋だったのでした。
ルカに生きる術を教えながらも、本人は退廃的な雰囲気をまとわせています。
ルカを置いておくことにしたのも、自分と重ねる部分が大きかったんだろうな。
ルカは頭を悪くすることで生き延びられてきたけれど、ジャレスは頭がよかった故に、また、弱みとなる恋人を持ってしまったがゆえに、死にかけました。
生きることになったのは、フェルナンドとの偶然のやりとりがあったから。
ルカへの気持ちを自覚したからこそ、ジャレスはルカを遠ざけることにします。
また、かつての同胞が訪ねてきたために、ルカの身を案じたためでもありました。
だが、やられるようなルカではない。
サッサと敵を片付けて、ジャレスの元に駆けつけた!実際、ルカは凄腕の殺し屋だったんでしょう。
ようやくジャレスへの想いが恋だとわかったルカ、そしてジャレスも、ルカと一緒にいる決意をします。
本編後の「恋を学ぶシカリオ」
これもすごくよかったー。
追われるように街を出たので、逃亡劇が主体になるのかと思っていたんですが、あくまでルカの恋を学ぶ様子に主軸が置かれていて、ルカを応援しながら読みました。
ルカは当然、ヤキモチもわからないわけで、また、ジャレスと気持ちが通じ合っていて、恋人だとも思えていないわけで。
タコス屋の姉妹との出会いで、胸のモヤモヤをずっと抱えてるルカが、可愛くてたまりません!
ジャレスはルカに自覚してほしくて、わざと何も言わないし、挑発するようなことをしてみせたりするけど、めちゃくちゃイケメンなので、全部絵になっちゃうというか、こちらまでドキドキハラハラ。
ようやく気持ちが本当に通じ合ってからのエッチでは、ルカの喘ぎ声がナチュラルに煽る感じで、これはジャレスも嬉しかっただろうな。
ど下手くそな声を出していたルカはもういません。
最後、サルヴァドールとの決着も宙ぶらりんにせずちゃんと収められていて、しかもすごくカッコいい去り方だし、スッキリできたのもよかったです。
ジャレスはこれからたくさん笑ってくれるだろうから、ルカには自信持って隣にいてほしいな。
これからも旅するのもいいし、またフェルナンドもいるミノシエロに戻ってもいいし。
彼らが自由に鮮やかに色づく街で生きていけますように。
素晴らしい作品でした。