電子限定描き下ろし漫画付き
「試しに小説と同じこと、してみればいいんじゃねぇの?」
デビュー作とは思えない、素晴らしい画力に表現力でした。「恋人ごっこ」というストーリーは王道っぽいのですが、独自の表現があり最後まで飽きずに楽しく読めました。
物語は中学の同級生との大学での再会からはじまります。
小説を書いていた枝折と読者として感想を伝えていた萩ちゃん。中一で出会った頃はふたりともクラスで話す相手がいない者同士だったのに、成長と共にかっこよくなり周りに人が集まってきた枝折に嫉妬した萩ちゃん。卒業の頃に枝折を傷つけて逃げて、二度と会うことはないと思っていた相手でした。
無理やり渡された枝折の小説の原稿を読み、それからまたふたりで作品を完成させていくようになります。
そしてふたりは、小説の表現力をあげるために追体験として期間限定の恋人ごっこをはじめます。
その恋人ごっこでするきっかけになったのが手を繋ぐことだったせいか、とても手の表現が丁寧に描かれています。きっと同性だからこその「はじめて繋いだ手」とか「触れたいけど触れられない」とか「自分は触れられないのに」というような想いを手にとても上手に語らせていました。切なさが表されていました。
時々、自分の相手への想いが止まらなくて暴走してしまうのですが、「ごっこだから」「ちゃんと友達だから」と誤魔化すふたり。
お互いに好きなはずなのに!!!!認められないの?認めたくないの?信じられないの?
自分からは言えない。簡単に「好き」と言えない。同性同士だからこその葛藤・苦しさ・誤魔化しがとてもリアルに感じられました。
期間限定が終わる頃、最後の想い出にしようとデートに誘う枝折。楽しく遊んだ後、「もう会えない」と荻ちゃんを突き放します。
その時の萩ちゃんのモノローグが泣けます!!友情も恋情も嫉妬も溢れていました。そして枝折の友情も恋情も嫉妬も!
その後のふたりの話はぜひぜひ読んでください!!
それほど驚くような展開ではないのですが、すごくよくまとめられていてすごくよかったです。
文章力なくてすみません!でもホントにうぐーーー!!って思える展開になってます!
いやー、よかった!!
因みにエチはないです。キスだけです。
それも不器用なふたりにはピッタリだったと思います。
そんなふたりの続きもぜひ読んでみたいです。
共通の趣味である小説をキッカケに仲良くなった中学時代の枝折と積川。
多感な時期のすれ違いから絶交をして数年、大学で偶然再会するところから始まるお話でした。
冒頭の再会シーンからはそれほど重たい空気は感じなかったけれど、それぞれの感情は思った以上に拗れて絡まっていて。
何気なく始まった「やり直し」の時間も楽しそうに見えて少しずつ歪んでいるようなところがあり、お話が進んでいくほど切なさが増していったような印象でした。
ふたり共ただ単に素直になれないだけではなくて、自分の想いを隠しながら相手の気持ちだけを確認しようとするようなところがあったので、どこまでいっても交わらない様子にヤキモキしたけれど。
前へ進むためのキッカケとそれが「間違っていない」という確信が持てなければ踏み出せないような弱さ。そういう部分がとてもリアルで、似た者同士な彼らのちょっぴり面倒くさい恋を見守りたいなという気持ちにさせてくれました。
一緒に過ごす時間の中で新しい想いを重ねながら過去の感情も引っ張りだして、やがて逃げずに向き合えるようになる結末まで辿り着いてくれて本当に嬉しかったです。
相手も大切で、でも自分自身も守りたくて。
慎重になりすぎて遠回りしたふたりの恋、新鮮な気持ちで楽しめた作品でした。
繊細な心理描写がしみる素敵な作品でした。
本を愛する2人の再会ものなのですが、もの静かな空気の中にほんのりと苦味のある青春を感じました。
派手さはないのだけれど、絵柄・ストーリー共に味がある1冊。
かつてはあれほど仲が良かったというのに、中学時代に起こったちょっとしたボタンのかけ違いから疎遠になっていた枝折と萩ちゃんこと積川。
やがて、ひょんなことから大学で再会した2人が再び交流を持つことになり…と続きます。
枝折が書いていた小説をきっかけに仲良くなった中学時代の2人。
枝折が書いた話を積川が読者となって読む。それだけの日々が楽しかったあの頃。
現在の合間に過去が断片的に語られ、読み進めていく内になぜ仲違いをしてしまったのかが少しずつ明らかになっていくのですが、思春期ゆえの青さともどかしさに苦しくなります。
再会し、枝折が書いている原稿を積川が添削をするようになった現在の2人の姿を見れば見るほど、あの頃の思い出がいかに2人にとって濃密で充実した日々だったのかが痛いほど伝わってくるんですよ。
きっと戻りたいと思っているんだろうなだとか、それ以上の感情もあるんだろうなだとか、複雑な感情でいっぱいなのが読み取れて切ないです。
同性同士をテーマにした小説の表現をより良くするために、ごっこと称して作品の参考になりそうな行動をするものの、どこからどう見てもデートなんです。
彼らを見れば見るほど、本当はただ一緒にいたいというシンプルな気持ちを持っているだけなのに、一緒にいられる理由を必死に探して友達でいようとしているのがいじらしくてもどかしいんだなあ…
モノローグが多く、どちらの視点なのかが分からなくなる場面があったりと少々読み辛さを感じる部分もありましたが、細やかな心理描写が本当に丁寧な1冊だと思います。
ボタンのかけ違いの答え合わせは読み応えがあり、全体を通して互いのことが好きだからこその独占欲と一途さ、不器用さが印象的な作品でした。