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何度本の整理をしても、引越しをしても、なぜか手離せない。紙本を手元に置いておきたい作品のひとつです。
個人的隠れた名作といいますか、時折読み返したくなるどうにも不思議な魅力のある作品。
レビューも評価も1件もないことに驚き、今回再び読み返しながら、この作品の雰囲気がお好きな方はきっと少なくないのではないか?と、ぽつぽつとレビューを書いている次第です。
大きなネタバレはなしのぼかしたレビューです。
埋もれているのが勿体ない作品です。
舞台となるのはアメリカ・ロサンゼルス。
あとがきに、担当様からBLというより翻訳もののゲイノベルだと言われたとありますが、これには少々納得してしまう。もちろん良い意味でですよ。
海外の空気を感じる文章がお好きな方や、低温かつ淡々としていながら濃厚。
そんなシリアスなトーンのお話が読みたい方におすすめしたい。
恋だ愛だと、ひと波あってトントンと上手くいって幸せになる。決してそういう作品ではないんですね。
正直、萌えがどうというよりも、幼馴染2人の狭い世界の奥にある、外側からは容易に覗くことが出来ない、とても複雑な関係性をリアルに描いたじっくりと読ませてくれる作品だと思います。
小さな映画館でひっそりと上映されている、心理描写を重視して丁寧に作られた海外映画のような雰囲気。
重苦しい中にも透明感を感じさせる文章が素敵です。
1人のマフィアが死んだ。
そこから再び、幼馴染2人の止まっていた10年間が動き始める。
かつて道向かいのアパートに住み、まるで兄弟のように育った6歳差のクリスとラフィ。
甘みの強いオレンジジュース。2人で分け合って親に隠れて食べたキャンディバー。
隣に並びあって描いたらくがき。クリスから香る油絵の具とテレビン油の香り。
そのどれもが2人にとって大切な宝物のような思い出なことがどうしようもなく伝わってくる。
そして、悲しいほどにもう元には戻れないのだということも。
複数の登場人物の視点からクリスとラフィのこれまでと現在が語られ、紡がれていく物語です。
心と身体に傷を負った少年と、心に傷を負った少年。
やがて、大人になった2人が1人の男の死によって再会を果たすことになるけれど、それはとても苦味を帯びたもので…
彼らの心理描写が苦しいほどに細やかで、10年という歳月の大きさ、それぞれの戸惑いや恐怖、心に負った傷の大きさが切なくも痛々しく流れ込んでくるような文章が見事で、非常にリアル。
気が付けば世界観に没頭してしまうんですよ。
人の心の再生を丁寧に描いた物語です。
読んで気分爽快になるお話ではないと思いますが、読後感は決して悪いものではありません。
読み進める内に、2人の青年と、まだ少年だった頃の彼らのことを愛さずにはいられず、そっと抱きしめてあげたくなってしまう。
クリスの周囲の人々の、それぞれ形の違う愛もすごく好き。
よくある分かりやすいハッピーエンドではないけれど、この先が明るいものであることをうっすらと感じさせてくれる、現実味を帯びたラストがとても良い。
槇えびし先生のイラストも作品の世界観とぴったり。
隠れた名作だと思います。
ぜひ、多くの方に読んでほしい作品。
静かに読ませる文章をお求めの方に1度手に取っていただきたいな。