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今まで読んだ秀香穂里さん作品の中では今作が一番傑作だと思います。
あらすじだけ言ってしまえば拉致監禁陵辱物なんですがこの作品はそれを越えてもっと深く、人の心理の奥深くまでえぐりとる様に描かれてます。
最初はAこと阿東英司[受]の日記から始まります、日付は9月1日。
この日からデザイナー英司は社長である石田[攻]によって彼の自宅の一室に特別に誂えた大きな檻へと閉じこめられ、名前も奪われただ「A」とのみ呼ばれ監禁される事となるのです。
石田は心理的にも身体的にもありとあらゆる手段をもって英司を追いつめていきます。
そして日記を書けと鉛筆とノートを彼に渡し、その日記が巻頭の文章に繋がるのですな。
Aの日記と平行して、自らをKと称する石田の日記も書かれておりその日記が後になればなる程大きな意味を持ってくる描写は見事。
彼らの会話に加え、彼らの日記が作中で交互に登場し、英司の強靱な精神力が少しずつ歪んで行く様子と、石田が何を求め考えて彼を追いつめていくのかの謎が深まって行き次第にこの作品の凄みに引き込まれて行く思いで読みすすめました。
監禁されている時間がたてばたつ程に己の精神がおかしくなっていき、そしてそんな自分を自覚している英司。
生後一ヶ月半で捨てられていたと語る石田。
読んでいる途中でふと石田はコインロッカーに捨てられたのではないか?と気付きました。
最近ではあまり聞きませんが、70年代にコインロッカーの中に赤ん坊を捨てるという事件が多発して、当時社会問題にもなったこの事件はショッキング性もあってその事件を元にしたマンガや小説が結構あり、そういう意味ではこの作品もその内の一つに加えていいんじゃないでしょうか。
コインロッカーに捨てられた赤ん坊を描いた代表的な作品として初期の村上龍さん作品に「コインロッカー・ベイビーズ」(←BLじゃないですがこれもっそい傑作です)があるのですが、石田もそのコインロッカーベイビーの一人だったのだな、と思いました。
英司を閉じこめていた大きな檻はコインロッカーの象徴であり、まともな感情を持たない石田にとって幸せな家庭で平凡に育った英司はプロトタイプ的存在。
一度は石田の元から脱出した英司は、再度その檻へと足を運びます。
そこにあったのは監禁中に自分が書き続けた日記とデザインのノート数冊と、もう1冊石田の書いた日記が。
英司をAと呼んだ意味、自らをKと称した石田その意味も最後で分かります。
入り交じる感情描写は読みごたえ充分。
ピアッシング等の痛いシーンもありますがエロ陵辱を越えた互いの魂の結びつきが描かれてます。
あとがきでこの構成は実験的で賭けの様とありますが、見事に成功していて、ずっしりと読みごたえのある話を読みたい方にお勧めです。
ホントはタイトルを「BL版コインロッカーベイビー」にしたかったんですがそれだとネタバレになっちゃうので断念しましたー。
非常に恐ろしい物語です。
凝った構成やみなぎる緊張感、息を詰めて読む感覚、呆然とするような終結…
この読み応えは神級ですが、BLの萌えは?と言われたら、いわゆる「萌え」は無い、のです。
美しい社長はサイコで、1人の社員を全く前触れなく拉致し、監禁し、人格を奪ってゆく。
確かに肉体的なレイプ、陵辱はあるけれど、終盤まで被害者は狂った社長を憎み、どうにかして正気を保ち、逃げ出してやる、と考え続ける。
社長は彼を「A」と呼び日記を書くように命令します。
この日記が、「A」となった英司の心境の移り変わりを読者に表すような構成。同時に社長の石井も自らを「K」と称して、何故こんな事をするのか、何故英司なのか、何を求めているのかを書き綴っているのです。
これらが石井が英司に行う非情な行為、また脈略なく示す優しさの描写の合間に交互に入ってくるのですが、これらは正直なところテンポ良くという訳ではないので、元々甘さ皆無のこの恐怖物語の納得できる説明にはなっていないように感じました。
まず石井の心が歪んだ訳がわからない。助かった事がそんなにイヤだったの?生きたくて叫んでいたんじゃなかったの?
また、最後に英司が何故自分から抱かれたのかも唐突に感じてしまいました。
…という私にとっての不明点はありつつも、監禁中に石井のための服飾デザインが頭に溢れ出してくる様子などが非常に印象的。
ラスト、舞い戻ってきた英司を迎える石井がそのデザインを実現した服を着ているのを見るその瞬間が目に見えるよう。
狂気じみた監禁の被害者と加害者が、切り札と騎士になるその瞬間。
どこか不気味で恐ろしい、でもやめられない。そんな作品でした。
ふばば様
こんにちは。コメント欄にて失礼いたします。
以前お勧めしていただいた小説を、少しずつではありますが読み進めております。
サスペンスの中でもこういったジャンルは一般小説では読むことがなかったため、とても新鮮に感じております。よい出会いとなりました。本当にありがとうございました。
監禁中のデザインの描写は、固定された舞台の中、鮮烈な印象を与えてくれましたね!
「黒い愛情」をきっかけに読むようになった作家様ですが、やはりこの方の人の精神に切り込んでいくお話はグイグイと引き込まれる魅力があります。
本作は、正しい世界に住む人間を変えてやりたいという妄念に取り憑かれている人間(石田)が己の理想のような「正しい人間」の主人公(英司)に出逢い、監禁して調教しようと画策するお話なのですが、読み進めると徐々に分かってくるのは、石田が心の奥深くに抱えている正しさへの強い憧憬と、それを持っている英司へのある種の信仰心のような畏敬の念。
なのにそれを壊したいと強く望む石田のこのちぐはぐな行動の意味は何なのだろうと頭を捻り、あぁこいつは絶対的なものが絶対的であることを証明するために自分にとっての偶像を破壊しようとしているのか、という読解に辿り着けた時、何かストンと腹落ちするものがありました。
壊れてほしくない自分の理想を全力で壊しにかかる石田はサイコパスだなぁとは思うけれど、自分の手なんかでじゃ到底壊すことなんて出来ないと証明できた時に救いに繋がるというのは解らないでもない気がします。
そのうえ英司は石田の想像を更に遥かに超えていたのですから。
9/23のKの日記に出てくる「きみは私の正気」という言葉が読み解く道しるべになったかなと思います。
それはそれとして。
英司の方を理解するのが私には難しいなぁ。
ただ、ストックホルム症候群ではないだろうなぁ。だってそれだと「壊れている」じゃない。
英司は英司で何かから解き放たれてちゃんと自分の意志で戻ったんだ、と読んでいいお話だと思います。
なんとなくだけど、デザイナーという英司の職業を考えると、アーティストとかクリエイターには時には必要な「狂気」を手に入れたんじゃないかな。
昔の正気100%の英司では生み出せなかったものが、石田の狂気に触発されて生み出せるようになった。
つまり石田の逆で、英司にとっての石田は「きみは私の狂気」というところじゃないかな。
そんなふうに読み終えていますが、、、でも私は凡人だから、なんだか命を削りそうな生き方だなぁ、ちゃんと2人で長生きしてよー!なんて願わずにはいられません。
「黒い愛情」同様にこちらも評価がかなりバラけていますが、恋愛を越えたような関係性がお好きな方は面白く読めるんじゃないかなと思います!
秀香穂里さまの本が読みたくて、購入。
監禁ものばっちこーい!でしたが、しょっぱなからっすか。いきなりっすか。好き過ぎ⇒誰にも渡したくない⇒監禁、じゃないんすかー。
現実味(トイレの回数少な過ぎじゃね?どうやって、部屋改造すれば誰にも知られずに監禁部屋なんて作れるねん?とか)は薄いので、読んでいて「??」って感じでしたが、そこは秀香穂里さま。読ませてくれます。
あんな目にあわされたのに、英司が戻ってきちゃうのは動機として弱い感じはしますが、ラブラブハピエンなんでいいです。
あと、挿絵が素敵だと思います。
常軌を逸した執着や独占欲からくる監禁ネタではなく、スタートは攻めの意図あっての実験のようなもの。
だからはじめにチラつく愛や恋要素はなく、淫乱にしたいわけじゃないという攻めのおかげで、性的な行為があっても即堕ち完堕ち状態はなくじわじわと楽しめました。
日記を通して双方の心の内も分かるので、話に入り込みやすかったです。
この生活を強制されたA(受け)にとってはたまったものではないですが、それを行うKにとってもAを通して命をかけているようなゾクゾク感があり、檻の中にいる者と外の者…立場の優位は違うはずなのに、終盤は共倒れギリギリのような危うさを感じ新鮮でした。
Aもよく抵抗して頑張っていたと思いますしラストに辿り着く流れも強引ではなかったと思います。
ただメリバになるのでしょうか。
Kがこんな監禁をしたことによりAが変えられたという事実は間違いなく、これがなければ理想的な上司と優秀な部下の関係のまま、何事もなかっただろうなと思うと心が震えます。
ようはKによってAは確かに変えられた、Kの行動によってAの恋愛感情に似ているかもしれない何かが生み出されてしまった、という人工的な感情、落ち着いた関係に恐ろしくもありつつなんとなく惹かれます。
二人ともハンサムすぎて目の保養でした。