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この道を歩いて、君のもとへ帰ろう――。
「花咲く~」ラストの、この葵のせりふがいいなぁ
この本、ざっくりまとめると、
連れ子同士が、お互い愛し合っているのに、一方が臆病で前に進めず、ぐるぐるするお話。
現在と過去を行ったり来たりしながら、お話は、中国地方の山の中の、のんびりとした景色そのままに進む。
閉ざされているのに希薄な空気感が、中国山地っぽい。
「花咲く~」でようやく思いを通じ合わせた二人。
と言っても、ようやくキスだけ。
「花降る~」では、東京で暮らしている葵と就職活動するかずさの話。
就職活動のため上京するたび、かずさは葵のアパートに行くのだけれど、、、
さすがに、もうセックスするようになっている二人。
一穂さんの良さは、エロよりも、所々に挟まれる、
ハナさんとビスコの話とか、
小学生のかずさがいたずらで鍵を隠した同級生と絶交する話とか、
再婚と引っ越しを決めた弓子さんが荷物を処分する話とか、
そういった、描写だと、改めて感心した。
先生の作風でずっとこういうのが読みたかったのだと思いました。遂に求めていた作品が降りてきた、巡り逢えたという感じです。読んでいる最中も読み終わった後も、これ程充実感に満たされたことはありません。
かずさが高二の終わり、シングルマザーだった母親が木工作家の慎さんと結婚した。それから大学に進学して二年。義兄弟となった再婚相手の連れ子で同い年の葵の愛犬、「ハナさん」が死んでしまったことから物語が始まります。彼等二人の出会いのシーンから葵のキャラと方言が魅力的に描かれていて、かずさじゃなくても一読者としてすぐに好感を抱いてしまいました。
自由で直感型の葵と、受け身で自分より相手のことを思うが故に行動に移せないかずさが、いつしかお互いのことを好きになっていて…、相手もそうなはずなのにと探り合うプロセスが堪りません。両者正反対の性格で、広島育ちの葵と、東京育ちのかずさ。片親育ち同士でもある点が強固に二人を結びつけます。
家族関係や友人、進路の悩みや仕事、物作りについてなど、ラブ周辺のストーリーが本当に緻密で丁寧に描かれ、懐かしい気持ちとともに強く共感してしまいました。ラブ周辺というよりもそういった描写こそがラブを盛り上げてくれるというのか…。言ってしまうとえっちシーンまでのつなぎじゃないんです。二人が結ばれるえっちシーンよりもそちらが読みたい。個人的に人物の心の動きこそが萌えどころなので。
印象に残ったシーンは、かずさが将来の不安や愚痴をこぼしたいときこそどうしても葵に言えず、その後葵が同じ状況に陥った時に、もしかしたらかずさも同じ思いだったのかもしれないと思いを馳せるところ。二人の心が通じ合っている様子を表現するエピソード一つ一つが素朴だけれど深くて素敵なんです。これまで一穂作品で鬼門だったえっちシーンも今作では問題ナシ。男同士という点も、出会いが高校生だったのと葵が芸術家肌ということでクリア。(…深く追及しません。)時折、時系列や視点の面で戸惑う場面もありましたが、とても読み応えがありました。というか、ゴチャゴチャいわんと単純に「良かった」です。
この作品は珍しくイラストが松本ミーコハウス先生で、意外な組み合わせだなぁと思ったのですが、読み終わって納得。『恋のまんなか』でまさに十代の青い痛みが描かれていたことや、海辺のシーンが重なるのもあって、わたしの中ではすんなりリンクしました。可愛らしいのに痛々しさを伴う独特な作風がぴったり。
一度手を放したら飛んで行ってしまいそうな凧のような葵だけれど、絶対にかずさの元に帰ってくる。だから旅に出ても、離れ離れになっても大丈夫。寄り添う若い二人の決意が清々しい余韻を残してくれました。一穂先生の作品では受けより攻めのキャラクターが毎回カッコよくて、ホレボレしてしまいます。
すっごい良かった、会話が多くて読みやすくて。
全体の雰囲気・空気感も肌に合う、というのかな、穏やかで居心地の良さを感じました。
親同士の再婚で義兄弟になった同い年のかずさと葵。今はお互い別々の大学で離れて暮らしていますが、愛犬の死で二年ぶりに再会する所からお話が始まります。
かずさと葵は二年前に何かあったようで…。その辺りをかずさの回想を挟みながら現在と併せて進行していきます。
いやー、一つ屋根の下、襖一枚隔てただけの両片思い良かったです、切なきゅんきゅんです。襖一枚がこんなにドキドキツールになるとは…。もちろんその襖が開かれる時が来るんですけど、これがもう、じわじわと積み重なった2人の想いが溢れてどちらともなく自然で…。あーきゅんとした。
ただしこれは二年前の出来事で、かずさは「家族だから」と葵を拒絶して現在に至ります。
現在の葵は何事も無かったように振る舞うので心の内が見えないし、葵を好きな女の子も登場するので、今も葵が好きなかずさ視点だと少しもどかしい。
でも一見すると豪放磊落で分かりやすい葵が、芸術家肌で理解されにくい一面を持っていたり繊細な気遣いが出来る事をかずさだけが分かっていたりと、2人の「これまで」を読んでいると一度のすれ違いぐらいで揺らぐ関係には思えないんですよね…。
再び想いを伝えるシーンもこの2人ならではの以心伝心みたいな要素もあり良かったです。
後半は更に二年後の話。今度はほぼ葵視点。遠恋の難しさ、将来の事、現実は厳しい事もあるけど前向きな2人がとても良かったです。
*再婚で家族になった渡辺家が何とも良かった。皆割と「個」なんだけど自然と「和」になるというか。ベタベタしていないのに思い遣りのあるこういう家族いいな〜。
あと葵と葵の父親の方言!めっちゃ良かった。萌えました!中国地方の語尾がやけ、とかのやつ。かわいいのに男っぽいぶっきらぼうな印象もあり会話を読むのが楽しかったです。
一穂ミチさんは作家買いしていて、大大大好きなのですが、この本は表紙があまりにあまりな感じでしたので(レーターさんのファンの方すみませんf^_^;)購入後積んでありました。
でも腹を括って(?)読み始めると、ジワジワとくる世界観が…
やっぱり一穂さんの本なんだなと、安心しました。
突然の親同士の再婚で義兄弟となったふたり。
もう再婚でギャアギャア騒ぐ年齢でもなく、ふたりの部屋は襖を挟んで互いのベッドが置かれます。
襖越しに相手の存在を感じるシーンが好きです。
攻めの葵は父親の血の為か芸術家志望で美大へ進学。
受けのかずさは堅実で京都の大学へ進学したけれど、結果的に就職難民。
このふたりの行く道が交差する、させる努力や、受けの見た目印象よりも一人の男子としてのプライドや家族への葛藤が美しい情景とともに描かれているのが素晴らしいと思います。
この作品だけでなく、一穂さんの書く文章は挿絵のない場面でも情景が頭に浮かぶ。
今回は挿絵にかなりドン引きして読むのが遅くなってしまいましたが、読後感がとても良く素敵な作品です。
水が流れているような自然な静かさの中、いろんな想いが交錯しながらすすむ恋。もちろん読んでいるときは黙って読んでいたけれど、心の中ではもうわーわー叫びたくなるような、きゅっと胸が詰まって可愛くて苦くて……ただすごいなと思いました。
性格も育ったところも全く違う二人は親の再婚で出会って、ちょっと遠回りで好き同士になって、高校生、大学生の年頃の二人は恋以外のこと、将来だったり自分のことだったり、いろんなことに悩んでそれでもどうにか答えが見えて……なんというか、葵とかずさの二人の今までとこれからを鮮明にうつしていて、あたたかな気持ちで見守りたくなるようなお話でした。
そしてなにより、二人やいろんな物事を表現言葉の一つ一つが美しい!葵が育った場所の風景もなんだか目に浮かぶようで、二人が自販機で飲み物を買っているシーンとか、想像してみて、すごくすごくいいな……と、いろんなところでキュンっとくるようなところがあったけど、ゴミ袋いっぱいの花は素敵すぎてため息が出ました、いい意味で!(笑)
タイトル通り、何があってもここに帰ってくるだろうと、そんな場所があると思うようになるまで。BL的萌ももちろん、物語として、読み終わって余韻にずっと浸っていたくなる爽やかであたたかな気持ちになれました。