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※後半の方で結末について触れています。
綺麗事の一切無い、男臭くハードボイルドな作品でした。
余計な感傷や情感を削ぎ落としたシリアスな世界観ですが、捕食し合う獣同士のような絡みや、新垣の須田に対する真摯かつ強烈な執着心には非常に熱いものがあり、強く引き込まれました。
ヤクザの息子・須田と警察キャリアの息子・新垣。
生い立ちは正反対だが、共に父親の呪縛という足枷を持ち、その呪縛から逃れようとする二人は自然と惹かれ合い、大学時代には身体をも求め合うように。
あることを機に訣別した二人だが、その後ヤクザと警察という敵対する立場として再会。危険な逢瀬を重ねる二人の背後では、ある事件が着々と進行しており。事件の全貌が明らかになったときは既に危険が迫っていて、追い詰められた二人は逃避行に…という話。
ヤクザ・須田と警察・新垣の関係は単純に悪と正義の二元論で語れるものではなく、警察の暗部をほのめかすエピソードや、新垣が須田を評して度々言う「気持ちいいくらいの悪党」という言葉から、表裏一体のものを感じました。
また、オス同士の闘いのように激しく求め合うセックス描写は、互いの立場など二人にとっての足枷にはならず、互いへの執着と欲望だけが二人を唯一拘束できる鎖であることを感じさせました。
最初は野良犬・須田を追う猟犬・新垣の物語かと思いましたが、須田のためなら何もかも捨ててしまえる新垣もまた何ものにも縛られない野良犬であり、互いが互いを追い追われる関係なのだと読み進めるうちに気づきました。
学生時代は一度手放してしまった鎖を今度は離さず、二人で逃避行へ走る怒涛のラスト10数ページは緊迫感と互いへの情熱にあふれていて、燃えと萌えを同時に堪能することができました。
糖度の低い、男同士の骨太で濃密なドラマを楽しみたい方にはおすすめです。分かりやすいハッピーエンドやbl的カタルシスを求める方、キャラクターに感情移入/共感したい方には向かないかもしれません(須田は女子供に対しても容赦なく悪辣で、新垣も結構アウトローな考えの持ち主なので)。
【※結末について】
エピローグは第三者視点で語られ、読者の想像に委ねるような(二通りの解釈が可能な)ラストです。どちらの解釈を取るにしても、最後までハードボイルドに徹した良い幕引きだと思いました。ハピエンと解釈すると、相変わらずベタベタした関係ではないが離れられないらしい二人にニヤリとさせられます。しかし、個人的には「幻」という解釈に一票入れたいです。エピローグ直前の、楽園を目指す須田と新垣の温かくも哀しい雰囲気が好きなので。そう解釈すると読後感は切ないものがありますが、裏社会の男の生き様を描いた作品には大変相応しいラストだと思います。
好き嫌いがはっきり別れる作品ですね。
男臭さむんむんなハードボイルド!
悪い方の中原さんですv
乙女な(笑)私的には、
前半のがりがりヤクザな展開はなかなか辛いのですが、
状況が転がり始める後半2/3くらいから
もうどきどきのはらはらで、
一気に最後まで読んでしまいました!
とにかくラストまでの緊迫感が!!
前半の辛さを思うと、ちょっと評価に迷ったのですが、
思いの外私は気持ち良く本を閉じられたので、
評価は「神」で!
男臭い!
ひじょーに男くさいっ!
そんでもってほとんど甘くない。
むしろ辛いかも。
最近見ないな、こういうお話。
途中からサスペンスが大盛り上がりで、止まらず一気読みしてしまいましたよ。
薬物使用の免罪事件により大学を退学させられたことをきっかけにヤクザとなり、若頭補佐までのし上がってきた須田は捜査一課の刑事となった新垣と再会します。
「ヤクザの息子」と言われ続け、犯罪に手を染めていた高校時代の須田に興味を示し、堅気へとつなぎとめようとしていたのが新垣でした。大学生時代には体の関係もあった新垣との再会に須田の心は揺れます。組の跡目相続にさしかかっている大事な時なのに、須田と出会った路地裏に足を運んでしまう自分に戸惑惑いつつも「お前を取り戻したい」だけでなく「自分がそちらに行っても良い」とまで言い切る新垣の姿を見ることに暗い満足感を感じ、彼と会うことを止められません。自分の中の熱に引きずられる様に須田は新垣との関係を再開させてしまいます。
そんな折、失脚を狙って工作していた議員の息子が薬物中毒でなくなってしまい、須田は警察と組から嫌疑をかけられてしまいます……
駄目だと思っていても引きずられてしまう恋。
それも破滅に向かう匂いがしているのに抗えないこの感じ。
うわーっ、たまりませんよ。
表面は冷めているように見えるのに、その内実が熱い、熱い。
恋もスリリングですが、起きる事件も非常にスリリング。
誰が裏切り者なのか、もう、読んでいて手に汗握りましたよ。
抑えた文体の所為で、もう新垣すら信じられない様な状態になっちゃった。
クライマックスのアクションシーンで気づいたのです。
「ああ、もう尺がないっ。悲恋か?悲恋なのか?」
……実に余韻の残る終わり方でした。
気の利いたハードボイルド洋画(それもハリウッドのじゃなく)を見終わったような満足感です。
暴力と悪に彩られたお話ですけれど、全く嫌悪感は感じませんでした。
読み応えあるよ。
電子書籍版を購入。
丸ごと1つのお話です。
挿し絵なし、あとがきありでした。
いやー、好きです。
こんな背徳感&閉塞感あふれるお話。
終わりかたも、賛否両論ありそうですが、
本作の雰囲気に合っていて、私はこれで良かったと思います。
でも、これ、BLではない。
この二人の関係は、ラブではない気がする。
かといって、友情でもない。
なんだろう?
うーん……うーん……
絆かな?
うん、強いて言うならば、絆だ。これ。
好き嫌い分かれそうですが、私は好きです!
そういえば、外道と呼ばれるような悪事を行うヤクザの話を、
小説で読むのは初めてです。
比べる物がないので自信を持っては言えませんが、
この本はヤクザ物として甘い部類には入らないと思います。
読んでいられない程の残忍なシーンがあるとは思いませんでしたが、
それなりに主人公(ヤクザの有能な幹部である受け)は冷酷非道です。
物語は、主人公の須田が大学生時代、
ヤクザの息子だからという理不尽な理由で警察に罪を捏造されるところから始まります。
そのことがきっかけとなり、自らもヤクザに身を落とすことになった須田。
そしてそれは、
新垣という、須田の唯一の心を許す友人であり同士であり、
躰を繋げる相手でもあった男との決別にも繋がる出来事でした。
それから10年近くの時が経ち、新垣と須田は再会。
捜査一課の刑事と、ヤクザの幹部という対極の立場で。
ヤクザの世界でのし上がることを何よりも優先してきた須田が、
足元をすくわれる危険性を感じつつも、再び新垣に会いに行かずにはいられなくなる…
その逆らえない欲求と葛藤が丁寧に描かれていきます。
思い出されるのは、
新垣が高校時代に語った言葉、
衝動的に初めて抱かれた日のこと、
犯してもいない罪を認めたと告げた、決別の時…
極道という自分で生きていくことを決めた世界、
現実味を帯びていく、求めていたそこでの高い地位…
その中で今、須田と新垣は互いに引き合うように逢瀬を重ね、また……
極道の幹部として舎弟たちには憧れられる存在の須田、女っぽさなど微塵もありません。
その彼が征服されることを切望するほどの、攻め新垣の男の色香。
貪るようなキス。
乱暴な熱いセックス。
男だからこその繋がりが魅力的に描かれます。
そして、話はさらに展開して……
ラストは意外でしたが、とても満足のいく終わり方でした。
エピローグの「野に放たれた猟犬のよう」という言葉で、
ああ、タイトルにある野良犬は彼のことだったのか…とやっと気づきました。
ラストを迎え、本のタイトル「野良犬を追う男」に、なるほど、納得…と思いました。
そうか、だから物語はずっと受けの須田の視点で話されていたのか、
心はずっと彼を追っていたのだ……と。
印象的なエピローグとラストで、物語にぐんと深みが増すのを感じました。
笑いの要素のないシリアスな裏社会のお話ですが、
エンターテイメント作として楽しめる一冊だと思います。
※ 作者もあとがきで言っておられたことですが、
主人公はヤクザとして酷いこともしますし、女性ウケするタイプではありません。
そしてラストは、賛否両論になるかと思われます。
自分はどうだろう??と思って読んでみるのも、面白いかもしれません。