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シリーズ発の単行本です。
《出版社あらすじ》
大人気シリーズ、ルビー文庫10周年記念企画、初の書き下ろし単行本!
圭と悠季、二人の出会いを圭の視点で描いた『天国の門』ほか、「まさか!?」のドリーム外伝を収録した、フジミシリーズ初の書き下ろし単行本。
収録作
・天国の門 (『天国の門』に再録)
・雪嵐 (『嵐の予感』に再録)
・こよなき日々(『嵐の予感』に再録)
「天国の門」は、圭視点による「寒冷前線コンダクター」で、2人の出会いが書かれています。
タンホイザー事件より少し前、圭が帰国の途につくところから話が始まっています。別れ際の恋人に「約束を破らないために約束は残さない」と言う冷めた男である桐ノ院圭が、悠季のバイオリンの音に心惹かれ、初対面で恋に落ち、その想いが揺るぎない愛情へと変化していく過程が詳細に書かれています。
しかも面白エピソードが天こ盛りで、本当の恋を知らなかった完全無欠なモテ男の悲哀に満ちた笑い話ともなっていて楽しいです。なお、M響アシスタント指揮者に就任する経緯やそこでの状況なども分かりますし、圭のお祖父様と伊沢さんのことも分かります。それから「奈津子 玉砕(フジミ・ソルフェージュに再録)」と合わせて読めば、初巻の『寒冷前線コンダクター』への理解がググッと深まり、よりフジミの世界を楽しめると思います。
「雪嵐」は悠季が母校のバイオリン科講師、圭はM響の押しも押されもせぬ常任指揮者になっている時点での話で凄くお気に入りです。福山先生の悠季への愛情のほどが分かりますし、M響定期公演での圭と悠季のバトルが面白いです。
まず福山先生は今回、娘(悠季)を嫁に出した父親っぽいです。2人の仲を知っているだけにグルグルされています。桐ノ院圭のことは人間としても音楽家としても認めてはいるし、才能を萎縮させたまま卒業していった悠季を成長させて力を引き出してくれたことにも感謝している。おまけに「2年待て」という自分の忠告を守って野望(悠季とのシベ・コン)を実現させたところも悪くない・・・・が、しかし!悠季をホモにしたことは許せない云々。などと考える先生が、圭のことを「桐ノ院のバカ造」「浮かれ亭主」「あいつはヘビ年かサソリ座の生まれだろう」と形容されていたのには笑いました。悠季は福山先生が圭との仲を御存知だとは知りませんから、真実を知ったときには青くなったり赤くなったりすることでしょう。
そして圭と悠季のバトルの方は、シベ・コンに向けての練習中に悠季も圭も互いに一歩も譲らず自分の音楽を追究しようとして傍目にも険悪な仲になっていくさまが面白かったです。コンサート前に決着がつきますが、それは圭に体力負けした悠季が脳貧血で倒れたから。この時に圭は、タクトをぶん投げて悠季に駆け寄り、目を血走らせた瀕死の形相で抱き上げて「楽屋はどこだ!」とわめいたことで、天才・桐ノ院圭の一生の笑い話となり、2人に一生ついて回ることになったそうです(笑)その後の本番は2人のラブラブな演奏によって見事大成功をおさめました。
「こよなき日々」は考えさせられる話でした。歳を取った悠季(74歳)と圭(73歳)の話で(注:五十嵐くんの妄想ネタ)内容的には穏やかで幸せな話なのですが私的には気分が落ち込む話でした。老いても仲睦まじい2人を見ていると何故か「老」「病」「死」の現実というものを眼前に突き付けられたような気がして胸が苦しく悲しくなりました。限りがあるからこそ、毎日を大切に生きていかなければならないのだなぁと思いました。