イラスト付
きれいなものを汚してしまうのが、怖い。
タイトルと攻めの名前(木津根=きづね)から、狐が出てくるモフモフファンタジーかと思いきや…?
幻想文学を研究する世間知らずな受けが、恋をすることで血生臭い現実世界の問題に直面し、その中で自身の愛を貫こうともがく…
そんなガッツリシリアスな作品でした。
主人公は、大学の国文科で小泉八雲の研究をする皐(受け)。
図書館でよく見かける木津根(攻め)という男と、民俗学の資料をきっかけに仲良くなり、やがて付き合い始めます。
会社経営をしているという木津根ですが、昼間から図書館にいる等、少し怪しい人物。
やがて、最近騒がれている暴力団組織の抗争に、木津根が関わっていることが分かり…
というような話。
木津根と連絡が取れなくなり、やがて木津根の敵に拉致され…と、否応なく抗争に巻き込まれる皐。
その中でも敵から情報を引き出そうとする等、芯の強さを見せます。
「できやしないもの…」
「あの人はあなたたちとは違うもの…」
等、水原作品の受け特有の女の子っぽい口調は相変わらずですが、今回の皐は敬語で話すシーンが多いため、さほど気になりませんでした。
その後、組織のゴタゴタが片付いてすぐ皐と木津根が結ばれるのではなく、住む世界が違うと一旦は別れる展開にリアリティがあって良いなと思いました。
再会後の木津根が(健康体ではありますが)貧乏な暮らしをしている等、大団円とはいかないラストにもほのかな切なさがあり、なかなか好みの雰囲気の作品。
ここ最近の水原さんの作品の中ではこちらが一番引っかかりなく読めて良かったです。
まず、タイトルや裏表紙のあらすじだけではどんな話なのか見当がつかなかった。
実際には特に奇をてらったものではなく、攻め受け二人の心情を読んでいく内容だった。
大学4年生で親の庇護を受けている身である皐が、図書館で出逢った木津根という男に惹きつけられていく。
木津根の素性を知って住む世界が違うと察した時に、彼への恋慕う気持ちをどうするのか?
その点については、皐が初めて本気で恋した人を想う事によって心乱される様子が伝わってきた。
木津根を取り巻く状況の中で混乱があって、行く末がどうなるのかって心配はあったものの、全体ではあまり波風が立たないような静かな進行だった。
作中の民俗学の薀蓄に絡めても木津根の人柄を思い知るって点にはピンと来ない位、彼の人柄は掴み切れなかったが、心の中にある過去の情景をぼんやりと思い浮かべているのかな?とは感じた。
そんな中で、木津根の周りにいる荒くれ男達が言う「木津根はこちら側の渡世に染まることがない」的な感想には切ないものがあった。