SS付き電子限定版
読んでて思い浮かんだのが「表面張力」という言葉です。
両片思いなのにすべてが壊れてしまうのを恐れて、ぎりぎりのぎりぎりまで兄弟から逸脱しないように振る舞う二人……。
杉原理生先生お得意の焦れ焦れ&ぐるぐるが、こんなに義兄弟ものと相性がいいとは思いませんでした。
ベストマッチな気がする。
義兄弟は、家族への罪悪感とか葛藤とかで悩みに悩んでナンボよ!って人に読んでほしいです。
お話は兄視点の光里で、少しずつ少しずつ進みます。
義弟の瑛斗の視線も、自分の気持ちも見ないふりをする光里。
「ふたりだけの国」に行けたら…と思いつつも、そんな場所はない。
「光里が一番大切」と言いつつ幼い光里を捨てた実母の死。
光里を何かと疎んで感情をぶつけてくる義母。
そういったものが光里の中で積み重なって、重い重い枷となっている。
自分の気持ちは押し殺して相手が望むような振る舞いをしてきたけれど、母からも義母からも息子として愛されなかった。
それならば「良いお兄ちゃん」でいたいと思う光里の理由が切ない。
そんな光里が瑛斗に迫られて「いつも叫びを押し殺してきた自分が、ほんとうの感情のままに振舞ったら、どんな声をあげるのか知らない」というところはグッときます。
一見淡々と静かに見えるけれど 水面下で熱いものがフツフツとしている気配を漂わせる二人。
弟の瑛斗は年下なのに性急さがなくて力技で押し切らない賢い子なんだけど、時折、その熱いものをふっと覗かせる。
そこに萌えます。
光里が、一進一退しつつもようやく呪縛を解いて自分の気持ちを瑛斗に伝えることができる、というところが終着点になっているので、家族にも認められて超ハッピー!みたいなのを読みたい!という人には不向きかもしれません。
家族の問題は何も解決していないし、前途多難だろうなぁ……とは思う。
きっと義母は発狂すると思うんですよね。
もしかしたら瑛斗は母との縁を切るかもしれない。
光里はそんな親子断絶は望んでいないので、苦しむと思うんですよね。
電子限定の書き下ろしSS「どこまでも手をつないで」は瑛斗視点なんだけど、ようやく成就した恋の喜びを噛み締めつつも「この先、いずれ苦悶するときがくる」「二人でいるかぎり光里は、自分たちの関係を後悔したり迷ったりするだろう」とわかってるんです。
(恋愛脳じゃない瑛斗、お利口さんすぎる)
だからこそ側にいたいと思っている。
そしてできるだけ負担は減らしてあげたいし、自分ができることは何でもして、光里ができるだけ苦しまないようにしたいと覚悟し、将来を見据えているんですね。
そして母よりも光里を優先する、一番大切なのは光里だ、と思っている。
高校生だけどすでに立派な男だ。
光里は苦しむかもしれないけれど、こんな瑛斗が側にいるから大丈夫だと思えます。
そして、苦しんでも手放せない愛、というのも萌えますよね。
義理の兄弟モノです。お兄ちゃん大好きな弟×臆病な兄。兄視点です。
弟は強く前向きですが、兄は色々な事に雁字搦めな為に逃げ腰です。この二人の、ギリギリでなんとか均衡を保っているような危うい関係、親への罪悪感、それでもなお、どうしても抑える事の出来ない気持ち、そして刹那的な衝動。そんな兄弟モノとしての醍醐味をぞんぶんに味わえる作品でした。このあたりが最近の作品ではアッサリしていて、ガチ兄弟でも割と簡単に乗り越えちゃうのが多い気がしますが、こちらはガッツリ苦悩してます。兄弟モノ好きとしては、二人の緊張感ただよう関係にゾクゾクしました。
親同士の再婚で兄弟になった二人ですが、年頃になるとお互いに惹かれ合っている事を察します。その為、兄の光里が高校進学と同時に寮に入る事で、二人は物理的に距離を置くようになります。しかし、光里の大学進学と同時に、親の転勤で、再び二人だけでの生活を送る事になり…という展開です。
派手さは無く、二人の日常をひたすら丁寧に書いてあるだけです。しかし、この日常が綱渡りをしているような緊張感に満ちています。お互いに兄弟のラインをはみ出さないようにしている為です。兄は、居場所が分からない自分に、お兄ちゃんという役割を見いだしたがために、強迫観念的に兄弟であろうとします。そして弟は、そんな兄の気持ちが分かっているので兄弟であろうとするのですね。しかし何かのひょうしに、ふとこみ上げる衝動。焦れたせいで出てしまう本音。これらが平凡な日常の中で異彩をはなっていて、ヒヤリとした緊張感を漂わせます。これが兄弟モノの醍醐味で、背筋がゾクゾク来ちゃいます!!
以前は名前で呼び捨てだったのに、「お兄ちゃん」と呼ぶようになった弟に、「バカにするために呼んでいるだろう」と言う兄に対して、「ー違うよ。『お兄ちゃん』と呼ばなきゃ、もう駄目だなって時があるから」という弟が非常に切ないです。弟は、常に兄が一番で、覚悟を決めている強さがあるのですね。
対して兄は、色々な事に雁字搦めで、ひたすら兄弟という形にしがみつこうとしています。しかし、とうとう気持ちが爆発した時に、自分で好きな物を選んで良いと弟に言われて、本音をさらけ出す事が出来ます。「…そばにーいて。俺のそばにいてほしい」と、やっと口にした時は、本当に胸が熱くなりました。
絡みは少なめですが、気持ちが通じ合った二人の「やっと…光里」という台詞が納得の感動ものでした。
兄弟モノで、しっかりと心情を追うことの出来る感動作です!
幼い頃、心の弱かった実母を護る騎士になろうとした光里は、成長してからも周りが望む姿であろうと思い続けていた。中学生のとき、一緒に寝ていた瑛斗が隣で自慰をしていたのに気付いた光里は、高校進学を機に家を出ることを決意する。だが、高校卒業後に父の転勤が決まり再び瑛斗とと二人で同居するようになる。
実母の死、父の再婚、義母の心無い言葉、義理の弟への許されない想い。光里は様々な過去を抱えているから、おいそれと瑛斗の胸に飛び込んで行けないのが、もどかしいです。誰も傷つけたくないし、周りが望む姿であろうとする光里は、優しいというより優柔不断ともとれるのですが、そういった彼の弱さごと受け止めた瑛斗が男前でした。
杉原さんの作品の登場人物は、ある日突然“ズギャァァァン!”と恋に落ちたり、「俺の愛を受け止めろー!!」っていう感じ(どんなBLだよ)ではないので、派手さはありません。
ですが、刻一刻と湧いてくる劣情を隠しきれなくなる二人に毎回ドキドキさせられます。
今作もやはり杉原さんらしく随分間怠っこしい物語でしたが、最後は漸くまとまってくれました。
惜しいなぁ、と感じたのは、最後くらい光里はもっと瑛斗に長年の情熱をぶつけてほしかった、というのと義母との確執は結局どうなったのか、もう少し掘り下げても良かったかな?
義兄弟か恋人か、家族と恋愛の間に揺れる煩悩や葛藤が繊細に描かれた話だった。
惹かれあいながら、なかなか一線を越えられない二人がとてももどかしくて切ない。
家庭環境の不運ゆえに心に枷をかけて自分の感情を抑えている受を、見守りつつしっかりと支える攻は好感度高い。
女性キャラの描写は良くも悪くも生々しくて不快感が拭えない。
最後モヤモヤが残る感じのラストは賛否分かれるかもしれないけど、私はこれで良かったと思う。
義兄弟ものです。レビュー難しいです。両想いなのに、じれじれします。上手く描けないのですが感想だけ。
兄の光里(受け)は生い立ちのせいもあって、必要とされないといけない、与えられた役割をこなさなければ愛されない傍にいてもらえないという思いが根底にあります。だから義弟の瑛斗(攻め)のことが好きなのに兄という役割を演じなければ家族が壊れてしまうからと踏み込めない。好きだという気持ちが溢れ出ないように危うい均衡を保ち続けています。瑛斗も同じようにこの均衡を保とうと努力しています。が、どちらかというと瑛斗は関係が変わると家族が壊れると信じている光里に合わせている印象があります。
でも、両親が転勤で関西の方に行ってしまって均衡を保たなければという義務感が減り、二人の想いがあふれ出てしまいます。これを押さえつけようとする緊迫感にはらはらします。
とにかく、二人の母親がなんて自分勝手なんだろうと思いました。大人なのに、大人に頼ってしか生きられない幼い子供に対して自分の感情を優先させるなんて。母親だからって女を捨てる必要はないですが、子供を健やかに育てる義務があると思います。二人の母親のしたことは精神的な虐待です。読んでて心が痛くなるキツイものではないけれど、じわじわとボディーブローのように効いてきて光里を縛り付ける。義母の方は光里が瑛斗の想いを受け取り自分の想いをさらけ出せない原因だし、実母の方はもっと根本的なところで光里を閉じ込めてしまってるし。瑛斗がいなければ、きっと実母が作ってしまった檻の中に閉じ込められたままだったことでしょう。
読んでて、周りのことばかり気にするのはやめようよ!って叫びたくなりました。自分の人生なんだから。人にはそれぞれの立場考え方があるんだし、全てが丸く収まることなんてありえない。
瑛斗は男前でした。兄弟になったときからそばにいてずっと光里を見て光里の負担にならないよう、そして自分を選んでくれるのを待ちながら自分を律している姿が中高校生とは思えない。でもこんな瑛斗だから光里を守っていけるんじゃないかと頼もしく思います。こんなにできた男が何故できたのがちょっと不思議ではありますが、大好きな光里がお母さんに八つ当たりされてるのを見て光里の為にこんな風に育ったのかなと思います。
やっと、「ずっとそばにいて欲しい」と正直な気持ちを吐露することができた光里は、心の奥底にあった母親の作った檻の中から瑛斗に連れ出してもらって、瑛斗の愛に包まれて幸せになるといいなと思いました。
とてもいいところで終わっているので穏やかな気持ちで読了できたのですが、数年後の二人も読んでみたいと思いました。
イラストもお話にぴったりで、杉原先生の雰囲気に小椋先生はぴったりでした。