イラスト入り
オカルトものです。怪奇作家である受けと、物の怪の『禍』、雪女(男)の小吹雪の3人が、一つ屋根の下で家族のように暮らして…というオカルトなんだか、ほのぼのなんだかちょっと不思議な雰囲気の作品。本編中に受けが怪奇作家として書いた小話が3作入ってますが、2作が背筋がゾッとする系。1作が「禍」の過去です。いい味を出してました。夜中に読んではいけません…。
怪奇作家の了則(受け)は、夜の散歩中、邪悪な物の怪の禍(攻め)に「暗いな。灯りを貸してくれないか」と声をかけられつけ込まれます。二人は、禍が話を聞かせるかわりに了則の精を飲ませる、という契約を結び、一緒に暮らし始める…という内容。
受けはおっとりとした無自覚魔性系。男友達に対して、仕事の愚痴を聞いてあげ、手料理を振る舞い、さりげないボディタッチ…。そして「真治は本当にすごい…! 僕なんか…」とあくまで控えめ。そこで男友達がその気になると、「えっ、そんなつもりじゃ無かったのに…」というタイプ。本人はそんなつもりじゃ無くても、結局はズルイと思うのですよね。
攻めは物の怪。暗闇から「灯りを貸してくれ」と人間に声をかけ、次の瞬間には灯りを消して、人間の肉を吸い取るという「肉吸い」です。なんか恐ろしい…。美男、美女の姿をしているそう。
過去に人間と恋に落ち、「半化け」になった為に体も温かく、人間っぽいです。
この二人+行き倒れていた雪女(女にしか見えないけど、体は男)とのほのぼのしていて、ちょっとシュールな同居生活です。ここに受けに惚れている男友達が絡んだり、物の怪と人間という、生物としての違いで生じるすれ違いなんかがあり…という展開。
話自体の温度が低いというのでしょうか。ちゃんと起伏があるのですが、淡々と進む感じです。受け視点で進むのですが、彼自体が物静かで感情の起伏が穏やかなので、そう感じるのかも。
禍の辛い過去だったり、二人が物の怪と人間という壁を乗り越えて結ばれる所だったりは心を動かされます。
やけに印象に残ったのは、当て馬になる受けの男友達。すごくいい男なのに、なんだかあまりの振り回されっぷりがあわれで…。受けにその気にさせられて、攻めには邪険に扱われ、更にあっさりふられ…と見事な当て馬っぷりなんですね。ほんと、かわいそう…。最後は雪女といい雰囲気になれて良かったねといった感じです。
絡みは、精をもらってるという設定なのでちょこちょこあります。本当に体をつなげるというのは後半に2回だけ。おっとりしているのに、なんだか淫乱な受けが見所。
オカルトなんだか、コメディなんだか、それとも純愛?…というつかみ所のなさが魅力の作品でした。
怪奇小説家の了則(受け)は散歩していると暗闇から物の怪「肉吸い」の禍(攻め)に声をかけられます。
失恋のショックで寂しさに耐え兼ね自殺しようとしていた了則は自殺を思いとどまり、禍を家に連れて帰り食事代わりに精を与え、禍の話をきかせてもらうことにするのです。
それから3年がたち、その間に性転換した元雪女の小吹雪も住み着いて、三人で穏やかに過ごしていきます。
全体を通して温度の低い話だったと思います。物の怪が出てくるからうすら寒いというのではなく、それもあるかもしれませんが、了則が人生諦めている感じがしたからだと思います。
了則は霊感があって、小さいころからこの世ならざる者が見えていたので、誰にも言えない自分の体験をメモにして残していたものを使って小説を書いています。恋人に転勤を機に振られてしまい、寂しさに耐え兼ねて自殺しようとするくらい、昔から彼岸のものが視えていたためかそちら側へあっさりと行ってしまいそうな危うさがあります。
もう新しく恋人はできないだろうし、物の怪は死なないので自分が年老いて死ぬまで一緒にいてもらえれば寂しくないと思っています。
禍のことは丁度いい性欲処理の相手として認識していたのに、無意識に禍に惹かれていきます。高校の同級生真治に再会し告白されてからは否応でも認めないといけなくなります。
禍は「肉吸い」で人間の血肉を吸い生きていく物の怪です。が、過去に心を通わせた人間と不幸な別れを経験しています。禍に関しては何を考えているのか結局よくわからなかったです。
以前の恋人をずっと思っているようにも見えるし、真治のことは凄く毛嫌いしていて、自分の獲物を横取りしようとしているとして最初は警戒していたので、了則のことを好きになっているようにもみえる。でも、真治が了則に告白したら、突然180度転換して「告白を断るなんて何故だ」になってるし。
これは物の怪の自分といるより同じ人間である真治と一緒にいる方が幸せだと思うからだと思いますが、じゃああの時警戒して邪魔してたのはなんだったの?と思いました。
了則が禍に告白して、返事云々は置いといて、禍も寂しいだろうし自分も寂しいから一緒にいてほしいと頼んでやっと一緒にいることにします。でも、禍はどういう気持ちで一緒にいることにしたのか、行間からうまく読み取れませんでした。
最後のほうに2回絡みがありますが、了則が告白した後のはちゃんと返事をしたわけでもないのに、流れで突入してしまった感じがしたのが私的には嫌でした。一緒にいることにしたってのと両想いになったというのは違うと思うんです。
当て馬の真治もよくわからない人だった。高校の時から気になっていて再会したときは運命だと思ったと言っていましたが、自分がゲイかどうかわわからないといっておきながらの、いきなりの告白でプロポーズってどうなん?って思います。まずはお付き合いからじゃないの?と。小吹雪とうまくいきそうで良かったのかな。
本編中に出てくる怪奇小説は、個人的に怪奇小説は好きなので面白かったです。本編の趣旨から外れるので、これ以上入れられないだろうけど、もっと読みたかったくらい。挿入されている小説のほうが面白かったと思っている時点で入り込めてなかったのかと思います。温度が低くてもいいから二人が求めあって想い想われの関係だと実感できないのがどうも、萌えという意味では萌えられなかったです。結局話の中に恋を絡めなくても十分話は作れたのではと思ってしまいました。BL小説だから入れたみたいに感じでがして。
一人は寂しい、でも誰でもいいわけじゃない、というのはわかるのですが、了則も禍も家族を求めていたようにも見えてしました。
結局この話は大人の恋愛なんでしょう。だから、両方が(特に攻め)がお互いをすごく好きで一緒にいたいと思いあう話が好きな私では理解できなかったのではないかと思います。禍視点の部分が少しでもあったらもっと違った印象を受けたのではないかと思うので少し残念でした。