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愛憎の因縁ある男女をそれぞれ前世に持つ洲脇義国と有田英一。
輪廻転生、生まれ変わり、前世という設定ですが、それについて語るものではないしオカルトめいてもいません。
普通の大学生のちょっと普通じゃないお話ですが。
洲脇は自分の中に宮澤という前世がいることをわかっています。対話もできて体を貸すことも出来ます。
英一の前世は、宮澤が一方的に恋い焦がれる友人の恋人の文(あや)ですがその存在はまったく知りません。
洲脇は前世宮澤の強い未練に振り回され、やがては宮澤と自分の精神が同化したように栄一に執着し、英一はさらわれるように洲脇のもとへ連れて行かれ、家からも籍を抜かれてしまい洲脇と共にいるしかなくなってしまいます。
その一連が、『恋愛時間』で兄が同性に好かれることに怯えていた詳しい理由です。
前世とは知らず文の人生を夢に見て苦しむ英一ですが、文が死ぬ間際、宮澤に対し少しだけ愛情があったことを思い出したのが救いではありました。
英一はその少しの愛情をよすがに洲脇を受け入れます。のち、英一は、文の夢を洲脇に話しますが、洲脇は自分が宮澤だったことはうちあけず、ただ謝ることしかできません。
洲脇が宮澤だと知ったら英一はどうしたでしょうか。そこまでは書かれていません。憎むのか、許すのか。答えはもう英一のみぞ知る、でいいです。
そして、『eternal』で突然登場して去って行った感のある船橋助教授。
この船橋助教授と、有田兄弟の余命わずかな叔父さん・和久の高校時代の関わりを書いたものが、同時収録の『F』です。
英一も洲脇も出てきませんが、あとがきによれば、書いたはいいもののどこにも行き場のなかったお話で、有田の系列ということでここにもぐりこませたのだそうです。
『恋愛時間』で兄有田に、弟のことはそのままにしておいてやれと言ったことや、洲脇を恋人だと紹介した英一を自然に認めてあげたことの背景がわかります。
でも叔父さんはノーマルで、船橋と恋人だったというわけではありません。むしろそれほど親しくはなかったのにお互い30年以上経ってもいつも頭の隅に存在を意識して、人生にも影響をうけたのではと思えるぐらい印象強い高校時代の1年足らずの出来事です。
叔父さんは最期、船橋に「お前が好きだよ」と言います。船橋の答えはありません。
このあとに『eternal』を読み返すと、「好きだということに気づけないということは不幸なことだろうか」と言った栄一の言葉を深く考えてしまいます。
叔父さんの魂もどこかで生まれ変わっていつか船橋の答えを聞くでしょうか。
いろいろ考えて悲しくて泣けてきます。
どれもはっきりと結果のない、こちらが考えこんでしまうような終わり方で、しばらく抜け出せませんでした。
ちるちるさんの記事『激痛に耐えられなかった木原音瀬作品6選』にてゾクゾクした痛みを楽しめる人向けとして紹介されていたこの作品。
大分苦しく…読み進めるのがつらかったです。
前世の人間の心が攻めの体の中にいる…というなかなか異色な設定です。
実体を持たない宮澤が前世で恋焦がれた相手、文の生まれ変わりを見つけたところから話ははじまります。
しかし現世では同性なうえに相手は記憶なし。
それでも構わないと洲脇(攻め)の体を借りて生まれ変わりの英一(受け)に迫ります。
英一にしてみれば何が何だか分からないですよね。
訳も分からず自分に執着する洲脇をゲイかもと警戒ししつこいほどの誘いにも嘘を吐いて逃げ回ります。
どちらの必死さも分かるけど報われる気がしなくてつらくてつらくて…。
ここが一番じわじわきました。
その後も痛みは続きなかなかに心を揺さぶられます。
これは自分の目でじっくり読んで見届けてほしいです。
同時収録の「F」もやけに印象に残った作品です。
32年経っても船橋がフルネームで和久のことを覚えている…それだけで胸がいっぱいになります。
もうそれだけで答えが出ている…とも。
めでたくハッピーエンドに結ばれればそれで良し、それがいいじゃないかなノリでは決してないところが木原先生の作品の魅力だと思います。
今回も良かった。
ちるちるさんのツイートで何度か目にして気になっていた作品。でも、電子書籍化されておらず、本屋を何軒も回って紙版をやっと手に入れました。最初に出版されたものに書下ろしを加えて文庫化されたものです。
前世に想いを残して死んだ男女が男同士に生まれ変わって再び巡り合うのですが、その残った想いゆえに前世とは違う結末に魂を昇華していくお話です。
洲脇義国(前世・男・宮澤)と有田英一(前世・女・文)は、同じ大学の学生。洲脇の中の宮澤が、英一が文の生まれ変わりと気づき、洲脇の体を使って英一に付きまといます。最初は嫌悪感しかなかったものの、英一は次第に宮澤(洲脇)に惹かれていきます。英一が宮澤を受け入れたことで、宮澤の魂は昇華されます。しかし、残された洲脇自身が英一に惹かれ始めた途端、英一の中の文が目覚め、過去の因縁から洲脇を拒絶します
次第に明らかになる宮澤と文の因縁が、暗くて重くて、文が宮澤を拒絶するのも無理はありません。しかし、前世ではすれ違ってしまった二人の切ない想いが、最後には現世の二人を結びつけます。それが救いであり、物語の核心なのだろうと思いました。蝶のエピソードがとても悲しく、印象に残ります。
前世の二人が現世では直接会わずに前後して消滅する設定が、切ないながらも面白いと思いました。二人の魂が一緒に昇華されたのでは、残された現世の二人は惹かれ合わない方が自然という気がするので。
登場人物たち、特に現世の二人の人となりがもう少し深く描かれていたら、惹かれ合う気持ちにもっと共感できたような気がするのですが、そうでないことで恋の狂気は際立っているのかもしれないと思いました。「お前が死ぬ時には、一緒に殺して」「そうして次、また会うんだ。」ゾクリとしてしまいます。
その後の二人の話「eternal」に登場する英一の叔父・和久の高校時代の話が、書下ろしの「F」。この二つをセットで読むと、とても面白く、表題作よりもグッときました。
和久の高校時代の同級生・船橋は、「島崎藤村全集が恋人」と噂されるほどの孤独な堅物。ひょんなことから和久は船橋と関わるようになります。人の情が欠落したような船橋に最初は反発していた和久は、やがて船橋の中に誰も立ち入れないような清廉さと独特の優しさを見出し惹かれていきます。その時は恋とは分からずに。船橋もまた和久に惹かれていたのですが、それを恋とは自覚できないまま、病身の和久との別れが近づいて…という話です。
細やかな心理描写と和久と船橋の距離感にすごく萌えます。永遠に分かり合えなくても、想いは確かにあり、その伝わらなさが尊いなあと思ってしまいます。
恋の深みに落ちた洲脇・英一たちとは対照的な物語に、恋って通じ合うだけが本当に幸せなのだろうか…と考えさせられます。
手に入れることができる方は、ぜひ読んでいただきたい一冊です。ぜひ電子書籍化してほしいです。