電子限定おまけ付き
『gift』完結です。
約3年前に上巻を読んだ時、「この先何度でも読み返す大切な物語になる」と思いました。
道徳心も感情の起伏も無く、痛みにさえ鈍感でどこかロボットのような頸と、表情豊かで人間味あふれる宥。
脅しによるレイプから始まった殺伐とした間柄に、大事だ、好きだって気持ちが芽生えていく…
頸は豊かに出会ったことでどう変わっていくのか?
上下巻の予定が、中巻が増えて3冊となり、その増えた分は、怪しい宗教団体(というより犯罪組織)が、頸をこれでもかってほど打ちのめす…
中巻はまるで別の話が始まってしまったようで、「この先何度でも読み返す大切な物語」が私の中でグラつきました…
でも下巻まで読むと、頸の根深い傷を解放するには、まず自覚が必要だから、打ちのめす必要があったのだとわかりました。
頸にとっての優しい記憶とトラウマを植え付けた父と兄、父はもういないから、兄と弟の対峙と決別がお互いにとってどうしても必要だったってことも理解しました。
異質に感じる中巻があるから、下巻に繋がったのだと…
頸は、宥に会いに行くために、宥が喜んでくれるから御子柴ジムを守りたくて、犯罪組織のボス・雀(チェ)に言われるがまま、自分で自分の腹を刺した。
そうして血だらけなのに、宥に会いに行こうとする…
頸は愛された記憶が無いから、宥が自分を愛していることがわからないんだ。
宥にとって自分がそばに居てくれるだけで良い存在だってわからないんだ。
そして自分自身を大切に思っていないから、ジムを守って宥が喜んでくれるなら、自分が死んだってぜんぜん構わないんだ…
頸の心の傷は、、、私には想像できないくらい深いんだと胸が締め付けられました。
宥が頸を見つけた時、流れ出た血が薔薇の花束を抱えているみたいに見えた。
これは頸の手を二度も放した宥への罰だと思う。
頸が自分から離れて行こうとしても、宥は絶対に手を放しちゃいけなかったと思う。
結果として、死なれて大事になるのも困るから教団は頸を助け、約束も守って、ジムにも手を出さないし、頸も宥も日常へと戻ることができた。
そこで頸は初めて痛みらしい痛みを感じる。
感情と感覚は隣り合わせ、頸は感情を殺さないと生きていけなかったから、何も感じないロボットになり、それに合わせて感覚も鈍っていたから痛みを感じなかったんだ。
痛みを感じはじめたってことは、それまで蓋をしていた感情も溢れだすということ。
肩車してくれた父との思い出、守ってくれた力強くて優しかった兄、そして二人に殴られ、身体を売り物にされていた辛い過去…
それを一緒に閉じ込めたから、だから頸の心象風景に登場する頸の分身達は子供の姿なんですね。
幸せな記憶と、辛い記憶、そのすべてが一気に頸の中に溢れだす。
泣いて、泣いて、獣のように泣き叫んで、まるで産声をあげているような頸。
宥はそんな頸のそばにずっといた。
きっと頸はこの時、許された場所で、宥のそばで、生まれ直したんだと思う。
それからは、頸と宥の未来へとつながるエンディング。
頸は自分からはじめてボクシングが好きだと、続けたいと思う。
宥は頸への気持ちに焼ききれそうで、引け目を感じていた同性愛者の自分と向き合う。
頸の心象風景の子供達はお花畑の中で幸せそうに転げまわる。
そして日常に戻ってこれた時、その子供達は少年に成長している。
傷もない、穏やかそうな綺麗な少年達。
頸の心は、宥のそばで生まれ直して、幸せに成長していってるんだ。
辛い傷の象徴だった彼らが、今度は頸の幸せの象徴に見えて泣けました。
二人にはただ、ただ、幸せであって欲しい。
最後の1ページに描かれている頸の表情に涙が止まりません。
3冊はこの瞬間のために描かれた物語なんだと思いました。
中巻があったから下巻に繋がったことを理解しますが、二人の物語において、教団メンバーの人物像掘り下げは不要だったと思うから、率直に言って ”蛇足感” は完全には拭いきれません。
当初の予定のまま、頸と宥の二人にしぼって、上下巻で物語を終わらせてくれたほうが良かったと思ってます。
そこだけは残念に感じますが、頸の傷の深さをエグいくらいに描きあげて、再生に繋げた物語には圧倒されたし、私の中で頸と宥が大事なことは揺らいでいません。
きっとこれからも何度でも頸と宥に会いに来ると思います。
『gift』は「この先何度でも読み返す大切な物語」です。
※電子特典は、その後の二人のひとコマ。
最初にレイプを仕掛けた男と同一人物とは思えないくらい頸は変わっています。
『gift』に惹かれている全ての人にこの頸を見て欲しいです。
物凄いものを読んだ感動に震えています。
上中巻の雰囲気とは打って変わり、薄紫色の柔らかい色彩が美しく印象的な下巻の表紙。
ああ、この物語が終焉を迎えるんだな…と感じ、寂しいような身が引き締まるような、複雑な心境で1ページ目をめくりました。
電子版なので他とは違うかも知れませんが、全266ページのボリュームです。
これは宥の愛によって勁が再生する物語。
今回、まさに生死をさまよった勁が、内に棲む自分の人格と闘います。
過酷な生育環境の中、身体と心の痛みからずっと勁を守ってきたもの。
そこから脱却することで生まれ変わらんとする勁。
そして、母のような愛情でそれを見守る宥。
宥の愛はときに母のようだけど、産まれたての赤子のように脆い勁には、この愛が絶対的に必要だったのだと思います。
恋愛や性愛だけではないこの関係に、私は本当に、深く深く感動しました。
宥がジムの会長でもある父親にカミングアウトしたシーンもとてもよかった。
ああ、宥はとてもいい父親に育てられたんだな。
人にあれだけの愛を注げるほどに、愛をたくさん注がれて生きてきたんだな、と胸が熱くなりました。
BLでこのテーマを描き切った一ノ瀬先生は本当にすごい。
この作品を届けてくださったことに心より感謝いたします。
3冊目にして完結編。
「gift」は副題が秀逸だと思うんですよね。それぞれの巻の内容を端的に表しているように思えてなりません。そして、今作品のこの綺麗な表紙。優しくて、温かくて。
完結編という事と、この綺麗な副題と表紙。大団円を迎えるのだろう、という希望を持ちつつ手に取りましたが、でも、2巻目が終わった時点では問題はまだたくさんありました。
宗教団体ヴェイクラからの迫害。
そして御子柴ジム消滅の危機。
そのいずれもから、宥を守りたい頸。
今まで、過酷な子ども時代を過ごしてきて、人を信じることも愛することもできなかった頸が、宥を愛し、そして愛されたことで無償の愛を宥に注ごうとする。
頸の中にいる「子どもたち」の描写が、とにかく素晴らしい。
親から虐待され、身体をいたぶられ、そして自分を守るために作られた「子どもたち」。
頸の中の、良心と、そして悪の気持ちが、彼らを通して描かれている。
成長することが出来なかった頸が、葛藤し、そして宥をもまるために模索し、もがき、そして成長していく。
傷つけられた頸の姿に落涙するけれど、それ以上に、宥を信じて成長していく彼らの姿に涙腺が崩壊しました。
はじめは「住む場所」が欲しくて始めたボクシング。
でも、ボクシングと宥の存在が、頸の全てを肯定し、受け入れてくれたことで彼は生きることが出来た。
そして、頸のお兄ちゃんの梏。
彼もまた、頸に深い愛情を持ってたんだよね。
複雑に絡んでしまった彼らが、ああいう形で決着がついてよかった。
頸が、記憶の奥に封印してしまった梏との優しい思い出。
どうかどうか、梏にも彼の全てを受け入れてくれる人が現れてほしいと願ってやみません。
そして宥も。
彼は、ゲイである自分自身を肯定することが出来ずにいたわけですが、頸と出会い、自分を偽ることが出来なくなった。頸を深く愛し、誠実でいたいと思うようになったから。
ただいま
お帰り
そう言いあう事が出来る、「帰る場所」を見つけた頸と宥。
序盤から終盤まで怒涛の展開を見せた今作品ですが、涙が止まりませんでした。
『gify』の上巻である「白い獣の、聞こえぬ声の、見えない温度の、」を読んだ時は、あまりの痛さに挫折しかけましたが、「赤い桎梏の、約束の場所の、望んだ十字架の、」そして今作品の「薄紅めく空の、潤びる螺旋の、光る岸辺の、」と続く素晴らしい展開に圧倒され、そして飲み込まれました。
子どもへの虐待。
レイプ。
人を傷つける描写。
痛い描写は盛りだくさんで、もしかしたら読み手を選ぶ作品かもしれません。
けれど、どん底にあってなお、自分の身を犠牲にしても守りたいと願う深い愛情にあふれた素晴らしい作品でした。
文句なく、神評価です。
最底辺まで堕としてからの大団円、素晴らしかったです。宥のためなら一瞬の躊躇もなしに、自分の命すら差し出せる勁。一見これ以上ないほどの愛に見えるけれど、宥からしてみればそれは、彼の愛を理解しきっていないからこそできる寂しい行動でもある。ナイフを刺したまま向かった約束の場所で再会した際、宥がなぜ喜んでくれないのかが分からない勁が悲しかったです。
崔の思惑は勁を取り込むこととは別にあったことが判明し、勁は治療を受けてちゃんと助かります。でも、彼の本当の苦しみはここから始まるのです。宥からの愛情を受け入れようと決断するということは、喜怒哀楽を一切感じないようにしてきた心の殻を打ち破ることになる。それを壊して人としての感情を取り戻した瞬間から、今まで押さえ込んできた痛みや思い出したくないほどの辛さが束になって勁に襲いかかります。勁自身が苦しいのはもちろん、それを傍で見ているしかなかった宥も相当に苦しかったでしょう。
壮絶な苦しみを経て、ようやく勁は生まれ変わり新しい人生を始めることができます。宥に好きだと言われて赤面する彼は、今までの彼とはまったくの別人のようですごく可愛かったです。宥からの愛を真に理解した勁は、ボクシングを続けるかどうかということにも自分で答えを出します。消去法や誰かのためにではなく、初めて自分の感情を優先して選択した勁に胸が熱くなりました。
そして、宥も勁の変化に応えるべく、ついに父親にカミングアウトします。親の気持ちを理解させるために宥を殴った父親に、ボクシングジムを経営するに相応しい情の深さを感じました。最後に父親もいる部屋で、仲睦まじく台所に向かう2人のコマがあったんですが、こんな風景をBL漫画で見られる日が来るとは思わず、このたった1ページが私の心に強烈に焼き付きました。古い自分に別れを告げて、新しい人生を歩み始めた2人をずっと応援したいです。
何年か前に1巻を試し読みして、これは終わるまで待たないとーと思い、
我慢していたものを、下巻で完結したこともあって3冊一気読みしました。
上巻、中、下巻まで読み終わるまで、何かずっと涙が止まらなくて、
私、涙腺壊れちゃったのかしら…と。
目ぼよぼよ&鼻かみ過ぎて鼻下かっさかさです。
下巻のレビュー欄なので下巻の崩壊ポイントを。いきなり冒頭からですが笑。
宥が、自らを刺した勁を見つけた時の下腹から流れ散る大量の血が
大きな薔薇の花束に見えた所
意識を取り戻し、痛みを取り戻し、感情を取り戻し…と
勁が一つ一つ”巻き戻されて”いき、そして、痛みと感情を封じ込めた表の勁と
闇を全て引き受けてきた裏の勁、ふたつの自我が統合する瞬間
(とはいえ三日三晩!の苦闘)、そして再び目覚めた勁と宥が愛を交わす…
ページ数だと100ページぐらいあるんですが、呼吸を忘れたかと思うほど
ノンストップで読み、その間ずっと涙が止まらなかったです…。
哀しい、切ない、そして愛おしい
宥のカムアウト、勁が自らボクシングに取り組むようになり、
そして、かつて御子柴親子が育てた広田選手が勁と対峙することで
忘れていたものを取り戻す…
辛い寒い冬を越え美しい花が一斉に咲きだすように物語が進んでいきます。
なんて美しい。そしてなんて萌える…!
アマ転向を願い出た勁がジムの仲間から夢を託されるところ…萌え禿げるかと。
電子限定おまけも、完全にノックアウトされました。
おまけ。
勁の兄のその後、そして先生と宗教団体とどんな過去があったのかなど
気になる所も少し残っており…。泣きっぱなしで読んだので読み飛ばしたか
もう一度ゆっくり読み返せば分かることが増えるでしょうか…
読み返すたびに涙腺ぶっこわれそうで心配なのですが笑
もうひとつおまけ。
宥(ゆたか)という漢字は「ゆるす」という読み方もあるんですね。
勁(けい)は、勁い(つよい)とも使う。