イラスト入り
中東にある、海と砂漠に挟まれたのどかな国・オルトガ王国。
摂氏45度にもなる暑い国で、入国早々空港で倒れ、その隙に貴重品ごと荷物を窃盗集団に盗まれ、自身は病院に運ばれ胃潰瘍で即手術と、ふんだりけったりな日本人・夏樹が主人公。
なぜここに日本人?という感じなのですが、文部科学省推進の海外プロジェクトに参加する日本人教師として中東へと渡り、はじめは別の地にいたものの、急な欠員を埋めるためにオルトガ入りをしたというもので。
オルトガで倒れ、無一文となった夏樹を助けてくれたのは、政府観光局に籍を置くサイードという日本人とのハーフのアラビアン。
親切な彼の元に身を寄せながら、ビザとパスポートが無事再発行され、術後の衰えた体力が回復するまで過ごすことになり…と続くお話。
あらすじで強引に求愛されるとありますが、あらすじ通り、日本語を巧みに操るサイードにぐいぐいと求愛される夏樹の図が続きます。
うーん、距離の詰め方がすごいサイードに懐かれ、ほだされまくる夏樹がちょろいですし、サイードがそこまで執着するほどの魅力を夏樹に感じないというのが正直なところ。
前半は、2人の会話のキャッチボールの雰囲気的にもコメディっぽさを強く感じながら、頭に浮かぶ疑問を端に寄せつつ読みました。
が、こちらの作品、何気なく書かれた文章が伏線となっていたり、回収の仕方も綺麗です。
なぜ夏樹は中東に?なぜサイードは犬のように夏樹に懐くのか?など、「なぜ?」と、疑問だった部分が、読み進めるにつれて綺麗にするすると回収されていくのが気持ち良い。
それから、情景描写も綺麗。
砂の大地の美しさ、古いレンガで作られた城跡、雪のように白い壁、アラベスク模様のタイル。思わず想像してしまいますね。
ただ、ちょっと上手くいきすぎかなと思う設定や展開が多かったり、あまり読んだことがないタイプのアラブものという点では楽しめたのですけれど、登場人物達に大きな魅力は感じられないままさらりと読了。疑問点も少し残ります。
序盤のコミカルさから、切なくなったり一途だったり健気だったり、ゆったりと感情の波が寄せては引いていくような描き方は好きでした。
もう少し長いページ数で書かれたお話だったのなら、きっと、より魅力的なお話になったのではないかなと。
好きな部分もありましたが萌え切れず、今回はこちらの評価で。