『魚住くん』シリーズを読んで心震えない人とは、お友達にはなれないな、と思います。 BL小説を読み始めて、榎田尤利という作家さんの作品に出会えて、本当に幸せだと思える1作。 榎田尤利さんの作品を全部読んでるわけではないのですが、多分これが一番好きかな。 BLに嵌ってすぐに評判のよさを聞き、そして色んな方のレビューを読んで「いったいどんな話やねん?」と疑問だったのが興味を持ったきっかけでした。みなさん、「いい、泣ける、感動した」とは書いているけど、具体的に何がいいかはよくわからず、しかし当時は絶版状態で簡単には手に入らずで、探しまくって図書館で借りました。 読んでみてわかりました。 これは一言では言い表せないな、と。 だから今私が人におすすめする時には、「とりあえず読んでみて」という事にしています。 いろんな思いが渦巻いて、愛がからまわりしてしまう。どんなに言葉を尽くしても、本作以上の感動を表しきれない。 だから、「いいから読め」と。 読んだらわかります。 わかってくれない人とは、永遠にご縁がなかったということで。 魚住くんシリーズは、文庫5冊(現在では新装単行本2冊)通してこそのお話だと思うので、途中のエピソードをあげて何処が良かった、というのはヤボなんですが、私が一番好きなエピソードは、【アイ ワナ ビー ア フィッシュ】。 過去の出来事に捕らわれ、大きな悩みの中にいる魚住を、見守ることしかできない久留米。 クリスマス、カップルが一番盛り上がるこの季節に、あえて連絡を取りあわず、ただただお互いを思い合っている。 とっても辛いシーンなのですが、この二人の心の距離感にしびれました。 こういう愛の形もあるんだ、と。 少女漫画的展開だったら、どちらかが救いを求めるか、それとも救いの手をさしのべて、二人の結びつきをわかりやすく見せつけ盛り上げるのが常道でしょう。そしてこのお話もハッピーエンドへ。 そこをさせない、しない、この二人の関係性をえがききった榎田さんはスゴイと思うのです。 だから、このシーンが一番好きだし、この季節にこそ、『魚住くん』シリーズを読み返したくなります。 それにしても榎田尤利さんは、クリスマスがお好きな気がしますね。 『魚住くん』でも、重要なエピソードの舞台として使われてますし、過去作品でも『神様に言っとけ』なんてモロ、クリスマスネタがありますもんね。『聖夜』もこの季節にぴったりの感動作。 未読ですが、『放蕩長屋の猫』では、クリスマスに浮気発覚、とか。 力のない作家だと、クリスマスを、状況説明のいらない、気持ちを盛り上げるための舞台設定に安易に使いそうですが、榎田さんは、王道を確信犯でやってる気がします。そして私はまんまとそれに泣かされちゃったりして……。 最新作の『恋とは呼べない(1)』『愛とは言えない(1)』シリーズでも、クリスマスがきっかけとして使われてますね。 榎田さん作品は、やっぱりこの季節にぴったりかも! またまた、過去作を読み返したい気持ちがムクムクしちゃってきて困るな。